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横山健と俺の11年半ーーPIZZA OF DEATH元名物社員がつづる「疾風勁草」番外編

 横山健という男は基本的に頭が良いし、感覚も鋭く、人間的にも熱い。件の話し合い以降も問題がなかったわけではないが、彼はメキメキと社長らしい包容力や決断力を身につけていった。スタッフのことを気にかけるようになった。恐らく、とことん深いところまで自分自身と向き合い、スタッフと頻繁に会話を交わし、トライ&エラーを重ねながら彼なりの社長哲学を構築していったのだと思う。もちろん、創作活動も並行しながら、だ。

 2006年9月、レーベル初となるコンピレーションアルバム「The Very Best of PIZZA OF DEATH」を発表。この頃には、言い方は変だけど、どこに出しても恥ずかしくないレーベルオーナーに横山は成長していた。そして、このタイミングで彼は、オリコンが発行する業界紙をはじめとする様々なメディアで、アーティストとしてではなくレコード会社の代表取締役として初取材を受けることになる。もちろん、ブッキングしたのは自分だ。Ken Yokoyamaとして前年に発表した2ndアルバム「Nothin’ But Sausage」もヒットを記録。社長業とアーティスト業のバランスが取れてきたのはこの頃からかもしれない。その後も作品を重ね、2008年1月には日本武道館公演、2010年10月には幕張メッセ&神戸国際展示場公演を成功させた。当時は考える余裕もなかったが、こうして振り返ってみると、改めてすごい男だなと思う。

 社長として、彼が最も素晴らしいのはスタッフをとことん信じるところ。これを「信じて任せるの精神」と呼んでいるのだけど、彼は一度任せた仕事に対してほぼ口を挟まない。スタッフのやりたいようにやらせてくれる。その分、スタッフ一人ひとりにのしかかる責任は甚大になるのだけど、それ以上にモチベーションにつながる。これは並みの精神では出来ないことだと思う。常識的に考えたら、新卒のペーペーに100万枚を売るアーティストのリリースに関わる一切合切は任せられないでしょう。「横山健は常識的な人間ではない」と言われてしまえばそれまでだけど。

 ここ数年で、横山健という男はパンクの枠を越えて、多くの音楽ファンから支持を受ける存在になった。彼が起こす行動に対して投げかけられる「さすが健さん!」なんて言葉もよく見かけるし、「これは横山健だからできるんだ」という空気すら感じることもある。でも、それは違う。なぜなら、ここまで語ってきた通り、彼は最初からデキる社長だったわけではないからだ。もちろん、音楽家としての才能は元々あったのだろう。しかし、それ以上に彼は努力を重ねてきた。挫折を味わいながら、曲がりくねった道を走り抜けてきた。自分は今、PIZZA OF DEATHを離れ、別の場所で活動しているけれど、俺はそんな彼のことが今でも大好きだし、尊敬している。

 今月24日にリリースされるDVD「横山健―疾風勁草編―」は、昨年秋に劇場公開された横山健初のドキュメンタリーフィルムだ。全国60の劇場で上映され、期間限定にも関わらず、3万人の動員を記録したという。しかも、配給会社を一切通さずに、だ。今年6月に開催されたPIZZA OF DEATH主宰の大型パンク/ラウドロックフェス「SATANIC CARNIVAL」も、なんとイベンターの力を借りずに成功へと導いた。この事実はあまり周知されていないが、イベント制作部門を持たないレコード会社が主宰する万人規模のイベントとしてはかなりの偉業である。「自分たちで出来ることはやれる範囲で全部やる」というインディペンデント精神は昔から全く変わらない。

 世間がどう思っているかは分からないが、自分は横山健という人間にまだまだ可能性を感じている。やって欲しいことがたくさんある。オンステージ以上に強烈なセンスを発揮するトークスキルは地上波のバラエティ番組に送り出したいぐらいだし、他のアーティストへの楽曲提供も積極的にやって欲しい。だけど以前、インタビュー中にそう訴えたらこう返された。「でも、一人の人間が生きてるうちに発せることってこんなもんだと思うよ?」そんなクールな物言いをしながらも、きっとまんざらでもないはず。「着地点を決めない、目標設定をしない」と常々語っている彼のことだ。何かやってくれると信じている。

■阿刀 “DA” 大志
75年生まれ。PIZZA OF DEATHにて宣伝制作を10年以上務めた後、12年からフリーランスに。現在は執筆業を中心に、プロモーター、音楽専門学校講師など、音楽に関わるあらゆる分野で雑食的に活動中。

■リリース情報
『横山 健 -疾風勁草編-』
発売日:9月24日
価格:3,800円(税抜)
収録分数:本編 117分 + 特典映像 37分
発売元:PIZZA OF DEATH RECORDS
特典:DVDでは劇場本編には収録されていない特典映像も収録のほか、
Ken Yokoyamaの新曲を収録したシングルCD付き。

最終更新:2014/09/07 09:42
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