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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.301

“伝説の俳優”松田優作の魂を受け継ぐ『百円の恋』デブニートが放つ、下流人生から起死回生の一撃!

hyakuennokoi03.jpgボクシングシーンだけでなく、濃厚な濡れ場もあり。安藤も新井も、俳優として持っているものすべてを出し尽くすことを求められた。

 安藤サクラ演じる一子の熱気に、共演者たちも激しく感化されている。一子がボクシングを始めるきっかけとなる狩野役の新井浩文も3カ月間トレーニングを続け、プロボクサーの体型になってみせた。一子とド派手なケンカを演じる妹・二三子役に選ばれたのは早織。『帰ってきた時効警察』(テレビ朝日系)でコメディエンヌ的な魅力を見せていた彼女も、一子役を求めてオーディションを受けていた。一子役は逃したが、彼女が演じる二三子も子連れのバツイチという人生の崖っぷちを生きる女であることをヒリヒリと感じさせる。深夜の100円ショップに集う根岸季衣、宇野祥平、坂田聡らの“残念な人たち”ぶりも効果的なボディブローになっている。ドブ川のような下流社会がきっちり描かれることで、一子のボクサー姿がいっそうスクリーンに映える。

 そしてクライマックスは、一子のプロデビュー戦だ。試合のシーンは8月1日に新宿FACEを借りて1日がかりで撮り切った。安藤サクラの変身ぶりに目を見張るが、対戦相手を務めた若手女優・白岩佐季江も大熱演で応える。彼女も同じジムに通い、安藤サクラと1カ月間試合シーンに向けて合同トレーニングに打ち込んだ。ボクシングを少しでも齧った人ならご存知だろうが、グローブを付けたまま1ラウンドずっとパンチを放ち続けることは常人にはまずできない。1分も持たずに腕が上がらなくなる。それを彼女たちは1日中続けた。早朝から深夜までリング上で何度も何度も繰り返し闘い続ける2人を観て、立ち会ったボクシング関係者は「女優はここまでやらなくちゃいけないのか」と唖然としたそうだ。試合の最後に一子が見せる壮絶な表情は、もはや役づくりとか演出とかを完全に越えた“逝っちゃった”ものになっている。

 リスクを伴う冒険に挑んだ人間にだけ、新しい道が開ける。全力を出し切って辿り着いた先に、少しだけ新しい世界が顔を覗かせる。でも、新しい世界への扉が開いているのは、ほんの一瞬だ。死にもの狂いで闘った直後に、その扉の向こう側に飛び込まなくてはならない。そして、扉の向こう側で待っているのは、心安らぐ楽園ではない。さらに過酷なハイレベルな闘いが待ち受けている。一子にとって、本作に関わったスタッフやキャストたちにとって、本当の闘いがそこから始まる。上映を見届けた観客も、劇場の扉を開けた瞬間から新しい何かが始まるはずだ。
(文=長野辰次)

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『百円の恋』
脚本/足立紳 監督/武正晴 主題歌/クリープハイプ「百八円の恋」 出演/安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、坂田聡、沖田裕樹、吉村界人、松浦慎一郎、伊藤洋三郎、重松収、根岸季衣 
配給/SPOTTED PRODUCTIONS R15 12月20日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー (c)2014東映ビデオ 
http://100yen-koi.jp

最終更新:2014/12/19 13:36
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