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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.306

これからボクの彼女(前田敦子)が枕営業します 男女の性欲と本音が交叉する『さよなら歌舞伎町』

sayonarakabukicho02.jpgAVの撮影に現われたのは妹の美優(樋井明日香)だった。震災後にAV出演した女性たちの証言集『それでも彼女は生きていく』(双葉社)が参考文献に。

 妹の一件でどんよりしていた徹だが、さらに追い打ちを掛けるセックスに遭遇する。ギターケースを抱えた若い女性が中年男と一緒に入ってきた。ん、もしかして? フロントから飛び出した徹は、その後ろ姿がミュージシャンとしてメジャーデビューを目指している恋人の沙耶であることを確認した。一緒にいるのはレコード会社のプロデューサー(大森南朋)らしい。これが世に言う、枕営業ってヤツか!? 自分の彼女が枕営業するのを黙って見ていられるのか? でも、沙耶がずっとミュージシャンになる夢を追い掛けていたこともよ~く知っている。夢を叶えるために体を張っているのを邪魔できんのか? 自問自答しているうちに、徹の脳みそはグツグツ煮え立つ。そんなとき、「お風呂のお湯が出ないよ」と客室からクレームが掛かってくる。あのエロ変態中年プロデューサーの声だ。「その女、ボクの彼女なんですけど」とクレームをつけたいのは徹のほうだった。

 徹は一流のホテルマンになること、沙耶はプロのミュージシャンになること、美優は地元で保育士になること。それぞれ自分の夢を持っているが、そんな明るい夢が本人たちを苦しめる。夢を手に入れるためには何らかの代償が必要なことはもう分かる大人になっていたつもりだけど、でも自分が追い掛けてきたキラキラ輝いていた夢がドドメ色に染まっていくようで、その現実を受け入れるのはやっぱり辛い。

 演出作品がすでに90本を超える廣木監督は、メーンキャストだけで14人に及ぶ“グランドホテル形式”の群像劇を手際よくまとめた。前田敦子の露出度以外での不満点を挙げるとすれば、廣木監督のいちばんの持ち味である長回しシーンが存分に活かせなかったことだろう。カメラで被写体をじっくり映し出すことで、被写体の内面の揺れ動きを捉えるのを廣木監督は得意にしている。今回の『さよなら歌舞伎町』は徹、沙耶、美優以外にも、韓国人のデリヘル嬢(イ・ウヌ)、ワケありなラブホの清掃係(南果歩)、家出娘(我妻三輪子)、不倫中の公務員(河井青葉)たちのエピソードが並行して進み、アダルトチャンネルをスイッチングしているかのような刹那さが良くも悪くも漂う。廣木監督の持ち味がより生きているという点では、『娚の一生』(2月14日公開)がおすすめ。榮倉奈々と豊川悦司の共演作であるこちらの作品では、年齢差のある2人の心の距離が次第に近づいていく過程を廣木監督は丁寧に追っている。ひとつ屋根の下で暮らす男女の関係をじっくりと描いた上で、豊川が榮倉の素足を持ち上げて、足の指を愛おしそうに1本ずつしゃぶるシーンが待っている。足フェチならずとも、グッとくる大人の恋愛ドラマだ。

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