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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.311

人はなぜ働くのか? 人気監督が導き出した答え『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

chef-movie02.jpg『アイアンマン2』のブラックウィドウ役でおなじみのスカーレット・ヨハンソン。ファヴロー監督作とあって、お友達価格で出演を引き受けた。

 グルメ業界を舞台にした軽快なコメディ映画だが、ジョン・ファヴロー自身の心情がありありと描かれている。主人公カール・キャスパー(ジョン・ファヴロー)はLAの三ツ星レストランの総シェフ。仕事に熱中するあまり、家庭を省みずにバツイチになっちゃったけど、有名レストランの厨房を任されているし、超セクシーな恋人(スカーレット・ヨハンソン)もいる。たまに会う息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)と共通の話題がないことが気掛かりだが、充分に世間の勝ち組に入っていいはずだった。ある日、カールのレストランをブロガーとして知られる料理評論家が来店することに。ここは新作メニューで評論家を唸らせてやろうと燃えるカールだったが、レストランのオーナー(ダスティン・ホフマン)が「待った」を掛けた。「お客さんたちは、うちの定番料理を楽しみにして来るんだ。いつも通りのメニューにするんだ」と。人気シェフとはいえ、カールは雇われの身。オーナーの指示に従って定番メニューを出したところ、評論家からは「カール・キャスパーは冒険心を失った」と酷評されてしまう。頭に来たカールは息子から教えてもらったばかりのツイッターで評論家に暴言を吐きまくり、果ては店内で大ゲンカ。かくして、カールはレストランをクビになり、失業者となってしまう。

 若い頃はがむしゃらにゴール目指して突き進んだけど、肝心のゴールに到着してからの身の振り方がおぼつかない。世に言う“中年クライシス”状態に陥ったカールは、これをどう克服するのか? 職場を失ったカールは、別れた妻イネズ(ソフィア・ベルガラ)の勧めでフードトラックでイチからやり直すことに。米国最南端の街マイアミまで中古のフードトラックを引き取りに向かうが、ここで出会ったのがキューバから来た労働者たちに大人気のキューバサンドイッチ。「こりゃ、うめぇ!」と食通のカールも大感激。フードトラックの看板メニューが決まった。夏休み中の息子パーシーを伴っての米国横断フードトラックの旅が始まる。ケイジャン料理で知られるルイジアナ州では名物スイーツのベニエ、テキサス州では豪快で野性味たっぷりな本場バーベキュー……、米国各地のご当地グルメを親子で食しながらの旅が続く。そして、旅のゴールはあの毒舌評論家の待つLAでのリターンマッチだ。

 フードトラックを運転しながらカールは思う。評論家の「冒険心を失った」という指摘は図星だった。だから、カールはムキになった。かといってオーナーの「レストランはお前のものじゃない。お客さんには定番メニューを出すんだ」という言葉も決して間違ってはいない。じゃあ、カールはどうすれば良かったのか? 結局、大きなレストランの厨房の奥に篭っていたカールは、いつの間にか評論家やオーナーの顔色をうかがいながら料理を作るようになっていたのだ。旅先で気取りのないB級グルメに舌鼓を打ち、フードトラックにキューバサンドを買い求めに来る一期一会のお客たちと言葉を交わすうちに、カールは自分が大事なことを見失っていたことに気づく。

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