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じゃまおくんのザオリク的マンガ読み

矢沢永吉『成りあがり』のマンガ版が、原作以上にロックしすぎて“ルイジアンナ”な件

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成りあがり 矢沢永吉物語(作画:きたがわ翔/角川グループパブリッシング)

 続いて08年、比較的新しめの『成りあがり』コミカライズ作品。こちらは、作画がきたがわ翔先生です。きたがわ翔先生といえば、『19(NINETEEN)』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』等の作品でイケメン&美女が多数登場しまくっていますので、この時点で永ちゃんがきっちり美麗イケメンに描かれることは確定路線であり、安心して読むことができる自伝作品であるかのように思われました。

 しかし、この『成りあがり 矢沢永吉物語』は、別の意味で壮絶にロックしていました。なにしろこのタイトルですから、普通に考えれば誰もが主人公は永ちゃんだと考えるところですが、実は違うのです。この作品の主人公は「内田忠志」なる、仕事に疲れたサラリーマンなのです。……誰だよ、お前。

 忠志の父・平太は熱狂的な永ちゃんファンであり、忠志は子どもの頃から父親・平太に永ちゃんのコンサートに連れて行ってもらっていました。しかし思春期、反抗期となりだんだんと疎遠になってしまい、大人になった今はすっかり話さなくなってしまったのでした。

 そんな忠志に、実家からの一本の電話が……。父・平太が病気で亡くなったのです。実家に戻り、父親の形見である永ちゃんのライブビデオや『成りあがり』を発見。忠志が父の遺した『成りあがり』を読み進めるのに合わせて『成りあがり』のシーンがマンガで描かれていくという、非常に凝った構成になっています。

 つまり主人公の忠志、父の平太、そして永ちゃんという3人のキーパーソンが作品中に存在し、しかも途中で平太が永ちゃんに影響されてこっそり書いていた手書きの自叙伝『裏・成りあがり』が遺品として見つかるくだりでは、平太の少年・青年時代の回想シーンにさかのぼります。さかのぼったと思ったら現代の忠志の時代に戻ってみたり、今度は永ちゃんのバンド結成時代へ場面転換してみたり……。ちょっとした、バック・トゥ・ザ・フューチャー状態です。

 さらにややこしいのは、主人公の忠志、若かりし頃の平太、若かりし頃の永ちゃん……3人とも、きたがわ先生らしいスッキリしょうゆ顔のイケメンとして描かれており、今読んでいるのが3人のうち一体誰の話なのか、だんだんわからなくなってきます。単なる自伝コミカライズにとどまらないこの複雑なギミックこそ、まさにロック……。ロックはロックでも、プログレッシブ・ロック寄りですけど。とにかくナメてかかるとノックアウトされる、ハンパな自伝じゃなかったのです。

***

 というわけで名著『成りあがり』と、そのコミカライズ作品を2作品ご紹介しました。マンガ版はどちらも原作を読んだ後なら超絶楽しめること請け合いであり、逆に原作を読んでなければ、あまりのファンキーモンキーベイビーすぎる展開にお口ポカーンになってしまう可能性がありますが、日本人男子ならば3冊とも必読の作品であることは言うまでもありません。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

最終更新:2019/11/13 17:22
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