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日本でもついに大ヒット! 『ワイルド・スピード』現象の鍵はマイルドヤンキー層へのリーチ?

 そもそも日本の走り屋文化&カスタム文化をルーツに持ち、作中では新旧GT-RやWRXやスープラといった日本車が毎回大活躍、3作目(ちなみに今回の『ワイルド・スピード SKY MISSION』の時間軸は3作目の直後のエピソードという設定だ)の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』の舞台は文字通り東京で、妻夫木聡や北川景子や真木よう子ら日本の人気俳優もキャスティングされていた(みんなチョイ役だけど)『ワイルド・スピード』が、これまで日本ではあまりヒットしなかったというのが、なにか大きなボタンを掛け違えていたとしか言い様がないのだ。で、今回そのボタンの掛け違えを「正した」、その原動力となったのが郊外や地方での興行であるという点に注目したい。ここ数年、映画業界では「あの作品、調子はどう?」「いやぁ、都市部では入ってるけど地方は苦戦だね」というような会話が挨拶代わりになっている。もちろん超娯楽大作以外は地方では公開館数が少ない/公開が遅いという問題もあるが、その洋画の超娯楽大作がアニメ作品や日本のマンガ原作映画などに食われて、以前ほどお客さんが入らなくなってきているのだ。そんな中、『ワイルド・スピード SKY MISSON』の上映館に駆けつけている(中でも公開直後に観た洋画ファン/シリーズファンではなく、何週も後になってから今まさに観ている)層は、近年実写洋画作品が取りこぼしてきた郊外や地方の観客、もっと言うなら、いわゆるマイルドヤンキー層なのだ。彼らは流行にはそれほど敏感ではないかもしれないが、一端そこにリーチすれば洋画でも大ヒットするということが今回証明されたと言えるだろう。

 マーケティング用語として生まれた「マイルドヤンキー」という言葉には、「もともと昔からいた層だ」だとか「都市生活者が地方を見下ろした言葉だ」だとかいろいろ批判があるのも承知している。しかし、「もともと昔からいた層」だとしたら、どうして『ワイルド・スピード』シリーズの日本での大ブレイクまで15年もかかったのか?(むしろ日本で走り屋文化やカスタム文化が盛り上がっていたのは10年以上前だ) また、「都市で映画や音楽に関わっている業界人はもっと地方に目を向けるべき」という教訓を与えた上で、見下ろすどころか見上げる対象として再定義する必要があるのではないか? 今回の『ワイルド・スピード SKY MISSION』の大ヒットは「マイルドヤンキー」層の影響力を改めて証明したトピックだと思うのだ。実際のところ、『ワイルド・スピード SKY MISSION』では「何よりも大切なのは仲間だ」「仲間というより、それはもはや家族だ」「スポーツカーを捨てて家族のためにミニバンに乗るようになったブライアン(ポール・ウォーカー)」「なにかにつけてみんなで集まってバーベキューをやる」といった、もうそのまま「マイルドヤンキー」の定義そのもののようなセリフやシーンが頻出している。日本だけでなく世界中でCDがバカ売れしている(もちろん配信でも大ヒットしているが相対的に)のも、「ITへの関心やスキルが低い」という「マイルドヤンキー」の定義にすっぽりと収まる。『ワイルド・スピード』シリーズの大ヒットが示しているのは、先進国ではなく新興国において、都市ではなく郊外や地方において、ホワイトカラーではなくブルーカラーにおいて、世界と思想やライフスタイルがよりダイレクトに繋がっているのは都市生活者ではなく「マイルドヤンキー」だという重要な事実なのではないだろうか。そう考えると、以前から「なんて野暮ったい邦題をつけたんだろう」と思っていた『ワイルド・スピード』(原題は『The Fast & The Furious』)というシリーズの名前も、とても相応しいものに思えてくるから不思議だ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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■作品情報
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
公開:4月17日(金) 全国ロードショー
(C) 2014 Universal Pictures

■原題 … FAST & FURIOUS 7 (全米公開:2015 年4月3日)
■監督 … ジェームズ・ワン 「ソウ」シリーズ、「デッド・サイレンス」「インシディアス」
■脚本 … クリス・モーガン
■製作 … ニール・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル
■製作総指揮 … サマンサ・ヴィンセント、アマンダ・ルイス、クリス・モーガン
■キャスト ※()内は役名… ヴィン・ディーゼル(ドミニク)、ポール・ウォーカー(ブライアン)、ドウェイン・ジョンソン(ホブス)、ミシェル・ロドリゲス(レティ)、ジョーダナ・ブリュースター(ミア)、タイリース・ギブソン(ローマン)、クリス・リュダクリス・ブリッジス(テズ)、エルサ・パタキー(エレナ)、ルーカス・ブラック(ショーン)、ジェイソン・ステイサム、ジャイモン・フンス―、トニー・ジャー、ロンダ・ラウジー、カート・ラッセル

(C) 2014 Universal Pictures/http://wildspeed-official.jp/

最終更新:2015/05/17 09:00
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