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高田渡の音楽が聴き継がれる背景とは? 社会派ソングを支えるモダンな音楽性

【リアルサウンドより】

 いきなりしみったれた話で恐縮ですが、ある日、ラジオから聴こえてきた歌が、なかなか心に沁みてしまいました。それは高田渡の「系図」という曲。子供が生まれ、死ぬほど働いてくたばった父親を描写した歌詞には、ユーモアと悲哀がにじみ出ていて、日々仕事と育児に追われている自分に重ね合わせてみたりしてしまったわけです。若い頃は、高田渡なんてなんだか貧乏くさい歌を歌う人だなあと思っていたんですが、いつの間にかリアリティを感じてしまうようになってしまったのは、世相なのか年齢のせいなのか。いずれにしても、先日コンパイルされたベスト・アルバム『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』を聴いていると、いろいろと考えさせられるのです。

 高田渡というアーティストに関しては、少し説明が必要かもしれません。1949年に生まれ、60年代後半のフォーク・ブームで脚光を浴びたシンガー・ソングライターなのですが、山之口獏や谷川俊太郎といった現代詩にメロディを付けるという試みによって評価されている一方で、時事ネタを扱った皮肉たっぷりの歌でも定評があります。その代表的なものが、「自衛隊に入ろう」でしょう。〈男の中の男は自衛隊に入って花と散る〉とか〈日本の平和を守るためにゃ鉄砲やロケットがいりますよ〉なんていうフレーズにドキッとさせられるこの名曲は、日米安保条約で騒がしかった当時に書かれたものですが、集団的自衛権が取り沙汰されている今こそ改めて聴かれるべきではないでしょうか。

 他にも、労働者の視点から家族や政治家を描写した「鉱夫の祈り」や、物価が上がるのに生活が追いつかない庶民をテーマにした「当世平和節」などは、40年ほど前に作られた楽曲にも関わらず、まるで消費税の増税を予見していたかのように現代と重なっていきます。決して声高らかに主張するわけでもなく、淡々とつぶやくように歌う彼のたたずまいが、さらに説得力を増しているというのもあるでしょう。

 ただ、そういう社会的な内容だけを歌っているのではありません。例えば、なんでもない穏やかな日常を綴った「自転車にのって」、京都の名喫茶店であるイノダコーヒーが登場する「コーヒーブルース」、静かな夜に火吹竹を作るというミニマムな歌詞が印象深い「火吹竹」といった名曲群には、高田渡という人の朴訥さや優しさがにじみ出ています。そして、こういう楽曲をどこか脱力した歌声や、カントリーやフォークに影響を受けたアコースティックなサウンドでコーティングしていくのです。

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