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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.333

肉親と精神科医から食い物にされた天才の悲劇!! ビーチ・ボーイズ暗黒神話『ラブ&マーシー』

love_marcy002.jpg23歳のブライアン(ポール・ダノ)は傑作アルバム『ペット・サウンズ』を完成させるが、あまりにも時代を先取りした内容だった。

 父親だけでなく、レコード会社も売れる曲を作ることだけをブライアンに求めた。ライブツアーは弟たちに任せ、ブライアンはスタジオに篭り、逃げ場のない状況の中で『ペット・サウンズ』のレコーディングを始める。孤立しがちな現代人の心を優しく捉える『ペット・サウンズ』だが、実はブライアン自身の避難シェルターでもあった。穢れのない音楽の世界に逃げ込むことで、ブライアンは辛うじて息をすることができた。『ペット・サウンズ』が誰にも真似できない崇高さに満ちているのには、そんな哀しい秘密が隠されていたのだ。

 映画『ラブ&マーシー』では、ビーチ・ボーイズ全盛期だった20代のブライアンをポール・ダノ、『ペット・サウンズ』が評価されずドラッグ漬け状態となった中年期のブライアンをジョン・キューザックが2人一役で演じ分けている。かつてキラキラしていた才能が輝きを失ったしょぼくれ感を、ジョン・キューザックが見事に体現してみせる。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)でダニエル・デイ=ルイスと互角の演技バトルを演じた若手俳優ポール・ダノは、『ペット・サウンズ』製作時のブライアンそっくりなぽっちゃり体型を再現。歌唱トレーニングを積み、ブライアンばりのファルセットボイスも聴かせる。自宅のピアノで「神のみぞ知る」の原曲を演奏してみせるシーンは、名曲誕生の瞬間に立ち会ったかのような鳥肌が立つ。だが、自宅で酒を呑んでいた父親は「女々しい曲だ」「タイトルを変えろ」とネガティブな言葉しか息子に投げ掛けない。ブライアンのイノセントさは名盤『ペット・サウンズ』を生み出すが、作った本人はガラス細工のように粉々に砕け散る寸前だった。

 ブライアンの不幸は、父親との軋轢だけではなかった。アルバムセールスが米国では不調だった『ペット・サウンズ』だが、同時期にレコーディングしたシングル曲「グッド・ヴァイブレーション」が大ヒットし、ブライアンはギリギリ土俵際でサバイブすることができた。『ペット・サウンズ』よりもさらに凄いアルバムをと、伝説のアルバム『スマイル』の製作に着手するが、ドラッグの使用量が増えたブライアンの奇行が目立ち始め、『スマイル』はお蔵入りしてしまう。結局、幻のアルバムと化していた『スマイル』が発売に漕ぎ着けたのは37年後の2004年(!)だった。才能と労力を注ぎ込んだ『スマイル』を完成させられなかったことに、当時のブライアンはすっかり落胆した。バンド活動から離脱したブライアンはますますドラッグとアルコールに傾倒し、さらに過食に走る。若妻マリリンは子育てするのに手一杯で、夫の深い悩みのすべてを受け止めることはできなかった。神に選ばれし才能に恵まれながらも、ひとりぼっちで廃人同然の引きこもり生活を送るブライアン。そんな彼に近づいたのが精神科医のユージン・ランディだった。

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