日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 松本が初めて明かす若手時代の苦悩
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第105回

もしいま、松本人志が『M-1』に出場したら? 『下がり上がり』に見る、芸人残酷時代

「(コンビで)ギスギスしていた時はあったかな、20歳過ぎの頃かな。『ダウンタウン、すぐ売れるやろ』って言われてたのが、意外とくすぶってたのが2~3年あって、その時は確かにギスギスしてたな。それこそ、(ハイヒール)モモコと歩いてたら『マネジャーさんですか?』って、しょっちゅう言われてたし」

 売れていないと、コンビ仲が悪くなる。すると、お互いが理解できないから、ネタもうまくいかない。ますます仲が悪くなるという、悪循環に陥りがちだ。また、相方に面と向かって何か言うのは照れくさかったりする。そんな時、松本はある“秘策”を使っていた。

「取材を受ける時あるやんか。ダウンタウン2人とライターさんの3人でしゃべる時に、俺はライターさんにしゃべると見せかけて、浜田に言ってるわけ。こうしてほしいと。『浜田がこうこうこういうことをしてくれた時が、すごい楽なんですよね』って、したこともないのに言うのよ」

 すると浜田は、それを察してその後、松本がこうしてほしいと思っていたことをやるようになったという。
 
 語られる若手芸人たちの葛藤は、彼らに才能があるからこそ地に足がついていて、余計に切ない。それに対し、時に優しく、時に笑いを交えながら厳しく返す松本の言葉はとても重い。また、若手をフォローしつつ、松本の話を広げる陣内の存在が番組で非常に効いている。たとえば、賞が獲れないと悩む芸人に対して松本は、

「競技人口が明らかに増えた。そうなってくると、賞の数に対して芸人の数が多すぎるから、昔みたいにはいかんわな。これからは賞獲ってない子でも、それなりに出てくると思うけど」

と冷静に語る。そんな松本に陣内は

「もし松本さんが若手芸人の立場で、いま『M-1グランプリ』に出たら、昔のダウンタウンさんみたいなネタで勝負しますか?」

と、絶妙な質問をするのだ。

「正直言うと、もう優勝は目指さないな。えげつない印象を残す。それで優勝したら一番ええけど、えげつない印象残す方に命かけるんじゃないかな」

 この考え方こそが、「才能があるだけの若手芸人のひとり」から抜け出す道なのではないだろうか。

『下がり上がり』はトークだけでは終わらない。トークがひとしきり終わると、ブザーが鳴る。舞台の“出番”を告げるブザーだ。そう、彼らがトークをしているのは舞台袖の部屋という設定なのだ。部屋の扉を開けると、そこには客が入った舞台がある。つい先ほどまで苦しい胸の内を晒し、涙さえこぼしていた男が、そのまま観客を笑わせるために舞台ヘ駆け上がるのだ。その後ろ姿は、めちゃくちゃカッコいい。

「さっきまで泣いてたヤツが急にはしゃいでネタやるって、やっぱ芸人ってちょっとおかしい」

と、松本は自嘲気味に笑うのだ。

 トークも達者だし、キャラクターも良く、もちろんネタも面白い。そんな若手芸人たちの魅力をじっくりと見せてくれるこの番組はとても優しい番組だ。だが、才能あふれる彼らが、必ずしも売れるわけではないというのを、視聴者も本人たちも知っている。だから、それはあまりに残酷で、それゆえ、あまりに魅惑的なのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 17:46
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