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【THE OUTSIDER】“濱の狂犬”黒石高大、引退へ──強くなった「ただの不良少年」の道標

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――多くの選手が他の団体に移籍したり、離脱したりする中、黒石選手はキックでの修行期間こそありましたが、ほぼアウトサイダー一筋でしたね。

黒石 風見鶏みたいにあっち向いたりこっち向いたりするのはよくないと思うし、なんと言っても、俺みたいなもんを引き上げてくれた場所なので、最後まで義理を通したかった。本当はアウトサイダーがなくなるまでずっとここにいるつもりでやってきたんですけど、今回こういう(引退という)形になっちゃいました。

――アウトサイダーと出会ったことにより、何が変わりましたか?

黒石 まわりの対応ですよね。普通に生活している人たちから「頑張ってるね」と声をかけていただく機会が増えました。それまでは不良から「突っ張ってるな」「気合入ってるな」と認められることはあっても、一般の方から褒められることなんて一度もなかったですから(笑)。あとは、生活も変わりました。役者やモデルのお仕事をさせてもらえるようになったのも、すべてアウトサイダーのおかげです。

――知名度が上がり、街でケンカを売られたりは?

黒石 街ではほとんどないですけど、「黒石とやりたい」と言ってジムに来たりする子はたまにいます。そういう子に負けたらナメられちゃうから、おかげでこっちも真剣に練習するようになりましたけどね。

――女性にもモテるようになったのでは?

黒石 まぁ、調子に乗っているわけじゃなく(笑)、昔から女性にはモテていましたけど、その幅がさらに広くなりましたね。モデルとして雑誌に出始めたり、アウトサイダーで勝てるようになってからは、会場で女性客がウワーッと寄って来るようになった。あとは後輩らと会うたびに「黒石さんを紹介してくれって頼まれています。すごく可愛い子です」とかって、しょっちゅう言われるようにもなったんですけど、やっぱ俺、ずっと後輩らに支えられてきたんで。そいつらが狙っている子かもしれないな、って考えたときに、俺が片っ端から唾をつけたら、そいつらのプライドが傷つくし、安っぽいからやっちゃいけないなって思って。だからあるとき、「もう俺にそういう話は通さなくていいから。全部断ってくれ」って言ったら、そこにいた男全員がすっげえうれしそうな顔をしたんですよ(笑)。だから、あ、やっぱりいくら後輩だろうがなんだろうが、男としてヤキモチは焼くんだってことに気づいて。こいつらに支えられてきたんだから、こいつらに対していいことはしなくてもいいけど、イヤなことだけはしちゃいけないなって思ったんですよ。

――実に黒石さんらしいエピソードですね。

黒石 俺がずっと負け続けている間、男たちが支えてくれたんですよ。そういう人間を裏切っちゃいけないなって。会場で女性が群がってくる間、男連中が遠くのほうで気まずそうな顔をしているのを見て、心が痛かったんですよね。俺は女性に対して、おまえらに支えてもらってきたわけじゃない、男が神輿を担いでくれたから俺はいまここにいるんだ!……って思いがあったんですけど、わざわざ声をかけに来てくれた女性を邪険に扱うわけにもいかず、そこはずっと複雑だったんですよ。

――硬派ですね。

黒石 いや別に、女は大好きですよ(笑)。キャバクラだって飲みに行ったりしますし。ハハハ!

――旗揚げ戦ではジャーマンスープレックスを食らった末に敗れ、第2回大会では開始2秒で失神KOされるなど、デビュー当初の黒石さんは「負け」のイメージしかありませんでしたが、それがいまではアウトサイダーの通算成績が「17戦7勝7敗2分1ノーコンテスト」。随分、強くなりましたね。

黒石 ゼロからスタートしましたから、ずっと進化はし続けています。練習量も年々増えて、ハードトレーニングできるコツや根性も備わってきて、いまが一番伸び盛りだったのかなと。

――格闘家として強くなるにつれ、心はどう変わりましたか?

黒石 本当に思うんですよ、体と心って一緒だなって。強い人間じゃないと、人には優しくできないと思うんです。弱いと、人を守ることすらできないじゃないですか。「食う食わない」の話で言ったら、強ければ食う食わないは自分のさじ加減で選べるけど、弱かったら「食われる」という一つの選択肢しかないですよね。男だったらやっぱり強くありたい。自分を守れるから初めて人を守れるんじゃないかな、って思います。

――引退後は俳優業に専念するとのことですが、そのルックスを生かしてコワモテ系の役者として突き抜けたいですか? それとも幅広い役を演じたいですか?

黒石 それがまた格闘技の引退を決めた理由でもあるんですけど、本当はいろんなキャラを演じられるのが役者の醍醐味だと思うし、そうなりたいんです。でも格闘技のトレーニングを続けていると、どうしてもそういうオーラが抜けないんですよね。人と会った瞬間、こっちは笑っているのに、「強そう」だとか「威圧的な雰囲気が出ている」とかって言われることが多くて。そうなると役も狭まりますよね。だから格闘技の選手であることをやめて、その色を完璧に抜いて、一回ゼロになってから、役者に真面目に向き合おうと思ったんです。

――役者一本で食べていく自信は?

黒石 正直、不安はありますけど、20代も残りわずかなので、ここらで一発勝負に出なきゃいけないのかなと思っています。

――役者さんって、どういう日常なんですか?

黒石 不規則です。朝早かったり、夜遅かったり。起きる時間もバラバラだし、1カ月バッと仕事が入ったかと思えば、その翌月は何もなかったり。本当にシビアな世界ですね。仕事が入るときに限って、ほぼ同時に複数のお話をいただいたりするんですが、体は一つしかないですから、せっかくのお話を泣く泣くお断りしなきゃならないこともあったり。本当に役者ってうまくいかなくて難しいなって、いつもそこで悩んでいます。

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