深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.353

地縁血縁とは異なる新しい家族の形。ロッキーのもとに集う“荒ぶる魂”たちの物語『クリード』

creed03ビアンカ(テッサ・トンプソン)もまた闘う女性だ。アドニスの波長にシンクロするように“荒ぶる魂”の持ち主たちが彼の周りに集まっていく。

 映画はコドクな人間に優しいメディアだ。暗闇のシートに身を沈めていると、スクリーンの向こう側から顔なじみの映画スターがこちらに向かって親しげに話し掛けてくれる。本作の中でロッキーは、若いアドニスに、そして我々にトレーニングの極意を伝授してくれる。それは鏡に向かってのシャドーボクシングをひたすら続けろというものだ。鏡の中の自分はこちらがジャブ、フックを放てば、瞬時に同じパンチで応酬してくる。鏡の中の自分は、要は心の中にいるもうひとりの自分だ。心の中にいる狡猾で、怠惰で、臆病な自分に打ち克つことができれば、どんな強敵にも負けることはないと伝説のチャンプは説く。このときのロッキーはアドニスだけでなく、『ロッキー』シリーズを長年愛してきたファン、本作で初めてロッキーに触れた新しいファンに向けても熱く真摯に語り掛けてくる。

 激闘となったプロデビュー戦を終えたアドニスは、恋人ビアンカを伴ってロッキー宅でささやかなお祝いをするが、このシーンは何ともいえない映画的な温かさに満ちている。普段のトレーニングやら仕事やらで疲れきっている3人は、気持ちよく酔って、ソファーで一緒にうたた寝している。本当の家族のように仲がいい。付けっ放しのテレビでは深夜映画が流れている。『ロッキー』と同時期に劇場公開されたヒット作『大陸横断超特急』(76)のラストシーンっぽい。映画を観ているうちに眠ってしまった3人は、それぞれどんな夢を頭の中で思い描いているのだろうか。部屋の奥に置いてある水槽では、大きなカメがその様子を見守っている。シリーズ第1作で、ロッキーがペットショップに勤める後の妻エイドリアン(タリア・シャイア)から買った小さなミドリガメは40年を経てすっかりデカくなっていた。

 新しい家族になったのは、ロッキーとアドニスとビアンカの3人だけではない。このシーンを観ている映画好きな人間ならば、誰もがロッキーたちの仲間になることができる。血縁でも地縁でもない、映画を介して人と人とが繋がる温かさを『クリード』は与えてくれる。
(文=長野辰次)

creed04

『クリード チャンプを継ぐ男』
監督・脚本/ライアン・クーグラー 出演/マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、アンソニー・ベリュー、グレアム・マクタビッシュ 
配給/ワーナー・ブラザーズ映画 12月23日(水)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
http://wwws.warnerbros.co.jp/creed/

最終更新:2015/12/18 11:13
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