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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.355

ヤクザのいない清潔な街は本当に居心地いいのか? 東海テレビのドキュメンタリー『ヤクザと憲法』

yakuzatokenpo03銀行口座がつくれない、保険に加入できない、車のローンも組めない。暴排条例が施行され、ヤクザは社会からますます孤立した存在となっている。

 通常のドキュメンタリーは被写体とどれだけ距離を縮めることができるかが成否の鍵となるが、『ヤクザと憲法』はそれとは違う難しさがあったと土方ディレクターは語る。

土方「ヤクザと利益供与する関係になると、暴排条例に抵触し、逮捕される恐れがあるわけです。取材ディレクターが逮捕されては番組がオンエアできなくなりますから、その点は配慮しました。例えば、『タコ焼き、食べへんか?』『車で送ってあげるよ』と言われたときは躊躇しました。ヤクザに便宜を図ってもらったことで、ひょっとして逮捕されるんじゃないかと。断り続けていると『人の親切を無駄にするのか?』『差別だ』とも言われました。『俺がおごるタコ焼きが食べられないのなら、人間として俺は思われていないんやな』とも。今回の取材は被写体とあまり親しくなり過ぎないよう、一定の距離を保つことに神経を使いましたね」

 結局、タコ焼きの一件は、割り勘にすることで納得してもらったそうだ。組同士の抗争時や事件のとき以外はカメラやマイクを向けられることのない彼らにとって、今回の取材は自分たちの心情を吐露できる数少ない機会だった。とは言っても、『ヤクザと憲法』は暴力団を擁護しているわけではない。「二代目清勇会」の親分である川口和秀会長は、山口組との抗争で女性従業員を巻き添え死させた「キャッツアイ事件」に関わったとして殺人罪などで起訴され、15年の実刑判決を受けた身であることにも言及している。「二代目清勇会」は武闘派として鳴らしたヤクザ組織なのだ。人間臭さを感じさせる表の顔とは異なる裏の顔もあることが分かる。組のシノギの実態に迫ろうとカメラは何度か試みるが、その部分は決して立ち入ることはできない。一般社会との大きな溝はどうしようもなく存在する。

 本作の主眼は、ヤクザの目線を通して、日本国憲法と日本社会の現状を見つめ直そうというものだ。社会から締め出されたヤクザたちはどこへ向かうのか。ヤクザがいなくなった街で権勢を強めていくのは誰なのか。浄化された社会では新たな差別の対象が生まれてくるのではないか。ヤクザたちの日常生活に触れることで、社会の浄化や治安保持のためにこの国が大きく変容しつつあることが体感できる。
(文=長野辰次)

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『ヤクザと憲法』
プロデューサー/阿武野勝彦 監督/土方宏史 撮影/中根芳樹 法律監修/安田好弘 製作・配給/東海テレビ 配給協力/東風 2016年1月2日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー (c)東海テレビhttp://www.893-kenpou.com

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最終更新:2015/12/31 21:00
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