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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.362

40歳を過ぎても現役にこだわる辰吉の孤高の闘い!『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』

joe_no_ashita02「ベルトよりも子どもが生まれたときのほうがうれしかった」という丈一郎の愛情を浴びて、2人の息子はすくすくと成長していく。

 辰吉はボクシングセンスだけでなく、言語センスにも優れている。「生まれ変わりたいと一度も思わない。面白いもん。辰吉丈一郎を一度やったらやめられない。父ちゃんの子どもでいたい」「(父と2人での生活は)ビンボーじゃなかった。世間的にはそうかもしれないけど、辰吉家は楽しかった」。辰吉の口からしばし語られるのは、自分を育て、ボクシングを教えてくれた父・粂二さんへの感謝の想い、そして愛妻・辰吉るみとの間に生まれた2人の息子・寿希也と寿以輝への愛情だ。辰吉は単なる天才アスリートではない。人間力がハンパなく高い男なのだ。そんな男だから、観客はみんな辰吉を応援し、辰吉はその声援を活力に変えて闘い続けてきた。

 辰吉に対する阪本監督のインタビューを中心にして本作は構成されている。20年間にもわたる付き合いとなると取材はなぁなぁになりがちだが、16ミリフィルムを介した2人のやりとりにはそれがない。プロ中のプロと認め合っている2人は、お互いの心を開いて、パンチの代わりに言葉を交わし合う。辰吉の口からどんな台詞が飛び出すのか、スリリングな時間が流れる。20代の頃の辰吉の鋭い言葉の返しも見事だが、30代、40代になってからはひと言ひと言に重みが増していく。辰吉から率直な言葉を引き出す阪本監督はインタビュアーというよりも、心理カウンセラーのように映る。辰吉は阪本監督を相手にしゃべることで、今の自分が置かれている状況を冷静に客観視しているかのようだ。ベルトを失い、愛する父を失い、そして若さも失っていく辰吉だが、カメラに向かってしゃべり続けることで、自分自身のアイデンティティーを確かめているのではないだろうか。

 現役ボクサーであることにこだわり、リングに上がることを渇望する辰吉の健康面を心配する声もある。でも、辰吉は「試合がしたい。引退しなかったことでいろいろと分かることがある」と突っぱねる。引退は他人から強要されるものではないというのが辰吉の持論である。阪本監督もまた辰吉とのインタビューによって大いに触発されているはずだ。『どついたるねん』で映画界に熱狂的に迎え入れられた阪本監督だが、その後は楽ではない道を歩んでいる。藤山直美主演の実録犯罪サスペンス『顔』(00)は高い評価を得たが、興収結果がすべてというシネコン全盛期に作家性をキープしながら作品を撮り続けるのは容易ではない。40歳を過ぎても実戦に向けてトレーニングを重ねる辰吉の一途さは、阪本監督はもちろん、観る者の心を今なお激しく揺さぶり続ける。

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