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週刊誌スクープ大賞

何を選び、どこに集中させていくか――「週刊新潮」60周年の功績と、週刊誌の未来

 ポストは何を間違えているのか、巻頭で「なぜ『三菱』は最強なのか」という特集をやっている。

 確かに三菱グループを集めれば世界最大かもしれないが、ポストでも書いている通り、三菱は過去から現在に至るまで「防衛産業を主軸に据えてきた」のである。戦前、戦中は軍部と結びつき、富国強兵を担って今日の三菱があるのだ。

 今も安倍政権と寄り添い、軍需産業復活を目指している中心に三菱重工があり三菱商事があり、三菱UFJ銀行がある。

 三菱と国は一体といってもいい。そんなグループを褒めそやす記事を作る神経が、私にはわからない。

 ところで、週刊誌にこれほど注目が集まるのは久しぶりだ。年明けから連続してスクープを放ち続ける文春の力によるところ大であるが、今週は「元少年Aを直撃」が巻頭特集である。

 元少年A(33)は1997年に神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件の加害者で、当時14歳。この事件で少年法が大幅改正されるなど、社会に与えた衝撃は大きかった。

 Aは約7年間医療少年院で治療を受け、04年に仮退院し、翌年に本退院が認可され、社会復帰している。

 Aが再び注目を浴びたのは、昨年6月に手記『絶歌』(太田出版)を出版したことだった。反響は大きく、発行部数は25万部に達しているという。だが、手記に対する批判も大きかった。出版に当たり被害者の遺族の了解を取っていなかったことや、贖罪意識に疑問を感じさせる記述が反発を呼び、当時小学6年生だった土師淳くんを殺された父親は「淳はこれによって二度殺されたようなもの」だと不快感をあらわにした。

 文春は手記が出された頃からAを追い続け、モノクログラビアではAが自宅を出てバス停へ走る姿や、電車内で携帯電話を見入っているAの姿を掲載している。目隠しは入っているが、顔の輪郭から着ている服、スニーカーがはっきり写っている。実名は書いていない。文春は、Aを取材し続けた理由をこう書いている。

「医療少年院を退院したとはいえ、彼は出版物を自ら世に問い、ベストセラーの著者となった人物である。彼の著書に影響を受ける“信者”も少なくない。もちろん素顔や現在の名前をさらす記事が許されるべきではないが、一方で純粋な私人であるとは、とても言えないのではないか。そう考えた取材班は、昨年六月の『絶歌』刊行から半年以上、彼の取材を続けてきた」

 そして1月26日、東京都内でAを直撃している。文春の取材に対して「何のことか分からない」「違います。まったく別人」だと否定し続けるA。

 あらためてインタビューをさせてもらえないかと記者が、その旨を書いた手紙と名刺を渡そうとすると、Aの口調が一変し、記者ににじり寄り、こう言い放ったという。

「命がけで来てんだろ、なあ。命がけで来てんだよな、お前。そうだろ!」

 身の危険を感じた記者が走り出すと、興奮したAは記者を全力で追いかけてきた。この日の数日後に、Aは東京を離れたという。

 文春によれば、98年以降連続で少年犯罪の再犯者率が上昇していて、15年上半期は37%と過去最高だそうである。

 また、淳くんの父親の言うように「重大な非行に対しては現行の少年法は甘すぎる」という批判も頷ける。

 だがと、これを読みながら考え込んでしまう。匿名という隠れ蓑に隠れ、被害者に対して心から反省しているとは思えない手記を書いて金儲けをする中年男への怒りは、私にもある。

 そうした社会の怒りを背景に文春がAを追いかけ回し、写真を公表することが、Aの再犯を抑止することになるのだろうか。かえって彼を追い詰め、自暴自棄にして再び犯罪を起こさせてしまわないだろうか。

 私も関わった『元少年Aの殺意は消えたのか』(イースト・プレス)の著者・草薙厚子氏は、Aは社会的不適合を起こしやすい広汎性発達障害ではないかと推測している。広汎性発達障害は「生得的な脳機能の異変が精神の発達に影響をおよぼした結果、幼少期から成長を通じて日常生活上のハンディキャップを生じている状態」(京都大学医学部の十一元三教授)だそうである。

 もしAがそうだとしたらという前提だが、草薙氏は「再犯防止の意味でも、いまとなってはいちばん重要である家族が中心となり、連携して支援システムを構築することが必要なのではないだろうか。そして遺族に手記の出版に対する謝罪と、今後一生をかけて償っていく具体的な内容を早急に示すべきである」としている。

 ジャ-ナリズムの役割は、ここにこんな危険なヤツがいると鉦や太鼓ではやし立てることではないはずだ。その人間が二度と過ちを犯さないために、何ができるのかを提示することも大切だと思う。

 確か、少年Aの母親の手記『「少年A」この子を生んで』は文藝春秋で出したはずだ。文春は、Aと両親とを会わせる努力をしたのだろうか。

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