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『ヘイトフル・エイト』に見る、タランティーノ監督のバイオレンス描写の変遷

 とはいえ、3作目の『ジャッキー・ブラウン』で往年の名作『コフィー』のパム・グリアーを主演に配し、オープニングからアメリカンニューシネマの名作『卒業』をオマージュした辺りから、着実に彼の作品のアメリカ映画への敬意が増していったように思える。その結果、描かれる暴力描写が銃器を使ったものに変わり、現実の世界に近づくことで、観客に暴力の恐怖を現実のものとして感じさせることになる。それが『キル・ビルvol.2』での、結婚式を銃によって破壊されるという悲惨な描写と、その顛末で描き出される親子愛によって、アメリカンバイオレンス映画の系譜を引き継ぐことへとつながるのだ。

 そして、『デス・プルーフ』でグラインドハウス映画のジャンルに挑み、そこでスプラッター映画界の新星イーライ・ロスと組むことによって、より描かれる暴力の激しさが増す。アカデミー賞戦線に名乗りをあげるほどに高評価を獲得した『イングロリアス・バスターズ』ではドイツ占領下のフランスを舞台としているだけあって、数多くのドイツ映画や、ヨーロッパ映画へのオマージュが登場することによって、彼の映画オタクとしての引き出しの多さを体感することができるが、それと同時に直視できないほどの暴力描写が急増した。

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 前作の『ジャンゴ 繫がれざる者』では、おそらくタランティーノの待望であった西部劇への挑戦となり、その期待を裏切らない優秀な脚本によって長尺を感じさせず、激しい暴力描写は相変わらずあったものの、最近では数が少なくなった西部劇映画としての風格と、元来西部劇が備える娯楽性をしっかりと残していた。それを考えると、2作目の西部劇となる今回の『ヘイトフル・エイト』は映画としての出来栄えは文句の付けようがないのだが、前作以上の長尺と、息苦しい密室の中でまざまざと見せつけられる激しい暴力描写では、娯楽性が乏しく感じてしまう。もちろん、激しい暴力描写にこそ娯楽性を感じるという意見もあるだろうが、個人的には100分前後のタイトな作りで見せてくれた方がスマートであったようにも思える。

 最近は2〜3年のペースで新作を発表しているタランティーノ。このペースだと次は2018年頃だろうか。あと2作品を撮ったら引退すると宣言している彼が、残りの2作品でどのような作品を生み出すのか注目したい。日本人としてはやはり、久しぶりに日本的なバイオレンス、やはり深作欣二の『県警対組織暴力』とか『狼と豚と人間』のような作品を作ってくれないだろうか、と願ってしまうのである。(久保田和馬)

最終更新:2016/03/01 09:00
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