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 >   > 壇蜜が綴る加齢、テレビ、バッシング。

壇蜜「加齢に伴い、時代と立場に合った思想を持つことが許されないとは驚いた」 類稀な客観性で現代社会をまなざす『どうしよう』

 中学時代のあだ名が「愛人」。元和菓子工場勤務。元銀座ホステス。元葬儀屋。外陰部まで露出する過激グラビアアイドル。黒髪の大和撫子……そんないくつもの“異色イメージ”を背負って表舞台に登場し、大ブレイクをした女性タレント・壇蜜(35)。各種メディアを席巻した当時と比べれば、雑誌やテレビで姿を見る機会は減ったが、コラムニストとして週刊誌連載を抱え、久米宏と書評番組のMCを務めるなど、どっこい“生き残って”いる。

 そんな壇蜜が2月に書き下ろしエッセイ集『どうしよう』(マガジンハウス)を上梓した。それを読むと、壇蜜の持つ価値観や人間性が、いかに日本のテレビバラエティや男性読者向け雑誌と食い合わせが悪かったのかが、判明してしまう。

◎凝り固まった「壇蜜らしさ」を削ぐ作業

 前述のように、過激グラビア写真を多く残している壇蜜。ホースやロープ1本で局所を隠し、剃毛済みの外陰部まで露わな写真には、衝撃を受けた。しかし一方で、男性を「殿方」と呼び、バラエティ番組ではゆっくり落ち着いた喋り方や所作で芸人を魅了。男性から三歩下がって俯きがちに(でも猫背ではない)歩く古風な女性のイメージと、性的好奇心を満たしてくれそうなイメージの両方を持っていて、まさに「昼は淑女、夜は娼婦」を体現しているように見えた。

 2013年に出した『エロスのお作法』(大和書房)は、“職業「エッチなお姉さん」として活躍する著者が書き下ろした、初の女性向けの恋愛指南本”であった。「殿方の視線や賛辞は、私たちの『栄養』なのです」と綴り、殿方を“愛すべき”“頼るべき”かわいらしい生き物として、壇蜜が手のひらで甘く転がしているようだった。同じくエッセイ本『蜜の味』(小学館)でも「恋愛関係になると徹底的に彼に尽くす」「自分ができることで彼が喜ぶことの代表といえばセックス。セックスにおいてはできるかぎりのことをする」「一方的に奉仕することを厭わない」と、献身的に尽くす姿勢をアピール。しかしそれらは、壇蜜というキャラクターに則ったものでしかなかったのかもしれない。

 比べて『どうしよう』は、本名である齋藤支靜加(さいとうしずか)の部分――つまり彼女の素顔が描かれているのではないだろうか。「壇蜜」は彼女にとってあくまで職業なのだ。たとえば、「壇蜜」というキャラクターのままだったら、無名時代にオーディション応募した動機として『当時付き合っている男の束縛が厳しく喧嘩になり、半ば腹いせのつもりで(中略)「見下した男に報復したい」という闇の気持ちが強かった』とは書かないだろう。いま、壇蜜は固定化した分かりやすい「壇蜜」というキャラクターの印象を、削ぎ落とす作業に入っているのではないか。

 壇蜜の齋藤支靜加としての本音が明かされているから、同書(『どうしよう』)は興味深い。たとえば、一時期と比較してテレビ出演の本数がガクッと減ったことについて世間から「消えた」等の揶揄があったり、売れたタレントに変化が見られると「変わっちゃった」「天狗かよ」等の苦情が出る現象を、壇蜜は次のように皮肉る。

『世間もTVも、最初にタレントが持っていたイメージを少しでも変えようとすると、大変怒る。分かりにくくなるからだろう。「それで売れたくせに手のひらを返さないで」と言われた』

『加齢に伴い、時代と立場に合った思想を持つことが自分に許されないと知った時は驚いた』

『娯楽を提供することが本分であるのに、どう転んでも怒りの感情を持たれるこの仕事は凄いな、と』

 表面上はたおやかな微笑みを浮かべていても、「大変悪い」と自称する性根を持つ壇蜜は、「心の中で唾を吐」いているそうだ。面白い。分かりやすさを演出したがるマスメディア装置にとって、エロアイコンという分かりやすさのあったかつての壇蜜は重宝物だったが、鮮烈デビューから5年経った今では劣化コンテンツ。分かりやすく整理分類しておくためには、「愛人キャラのエロ熟女」路線を強化するか、「結婚に焦る35歳独女」とかの新しいキャラ付けをするか。しかし彼女は「人間は変化していく有機物だから、常に分かりやすい存在でなどいられない」とはなから知っていたのだろう。そのうえ客観的な視点を持っているので、嘘のゴシップニュースが流布しても

『壇蜜というタレントは「叩いてスッキリ」の対象物でもあるので仕方ないといえば仕方ない』

 と割り切る。さらに彼女の思考は深く潜る。『大丈夫は不安』という項で彼女は、具体的な事象を見せずに、あくまでも抽象的に「今の日本社会の様相」を切り取ってみせている。

『極端な考え方だが、不安に振り回され、「意見の違う人を攻撃しないと自分を保てない」という人々が増えているように思えるのは、決して気のせいではない。何かと二派に分かれがちな最近の「モノの考え方の傾向」を見ていると、「意見が違う! だからこうしてやる!」と石をぶつけられる日もそう遠くないのかもしれないとすら感じた』

『不安なのは「知らない」から。そして、「違うこと言ってる人は敵」だと思っているからだろう』

 一体“何”について、“誰”についてのテキストなのかを敢えて明示しないことも含めて、壇蜜の聡明さには唸るばかりだ。自分に敵意を向けてくる他者を、彼女は「私に良心を見せることのない人たち」と分析し、「彼らにも良心はあるはずだ、と妙な期待をしてしまうのはよそう」と、これまた割り切る。実際、彼らにも良心はあるはずだが、「私」に対してその良心を向けることはなく、それは「私」が彼らにとって良心を向けるに値しないと思われているからなのだ、と壇蜜は冷静に思索し、敵意の者たちと距離を置くことを決めた。

 同時に、壇蜜はいかに自らが怠惰な女性であるかを淡々と記録している。「いつも眠い」とか、「働きたくない」とか。特に睡眠欲については共感しすぎて、イイネ!ボタンがあれば10回押したい(何回も押せるものなのか?)。『眠くて仕方ない』という項は、「眠い」を理由にして男と別れたことが2回あるという書き出しから、30半ばの現在も一向に眠気が抜けず14時間寝てしまったりする、などと、朝活でヘルシー爽やかキラキラ女子☆が流行中の昨今において、珍しいほどの怠惰ぶり。壇蜜にとってそんな流行はどうでもよくて、他人にだらしないだの何だの咎められようとも屁でもなく、ただ心地よく安眠したいだけなのだ。

 本のタイトルは『どうしよう』だし、執筆開始当初は日常の困りごとについて書く予定だったというが(あとがきより)、どう読んでみても、壇蜜はなんにも困っちゃいないし、「どうしよう」と惑ってもいない。自分が何を好きで何が嫌いで、あれがこうなったら気持ちが良くてうふふと笑っちゃう、そういうことを壇蜜は自覚的に把握していて、迷いはほとんどないのではないか。男とか結婚とか産むとか産まないとか、そういったテーマには深く踏み込まず、しらをきり通しているところもいい。今の壇蜜の姿勢から、女性たちが学ぶべきことはたくさんある。
(下戸山うさこ)


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