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荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」

■『週刊少年ジャンプ』と表現規制

2Q==.jpgスキャナーズ』(パラマウント)

 巻来功士氏といえば、溶け落ちる皮膚、人間の機械化、人体の変型等、グロテスクで、フェティッシュな描写を多用する漫画家として知られる。時としてその作風は少年誌の範疇をはみ出るようなものであったが、それは当時の時代背景にも関係していたようだ。

――今から思えば、巻来さんが少年誌の範疇から出るような作品を描いていたってことがおもしろいですよね。

巻来「今では考えられないかもしれないですけれど、当時は映画『スキャナーズ』(1981年/デヴィッド・クローネンバーグ監督)とかがメインのカルチャーだったんですよ。だから『ジャンプ』もOKを出したんですよ」

――メインカルチャーの変遷とともに『ジャンプ』の作品も変化していったんですね。

巻来「そうですね、それはスピルバーグがR指定を作ったように、『ジャンプ』もオタク向きというか、より子ども向けになってきたと思います。スピルバーグも『ジョーズ』から『未知との遭遇』であり『ET』になっていったようにね。そういうように時代と漫画はリンクして変わってきてると思いますよ」

――あと、僕が思うんですけど、子ども向けのものでも、子どもに理解できない部分が入っているべきだと思うんですよね。それは知識が追いついていないからわからないんだけど、大人になってから伝わるんですよ。だからいい作品は、子ども向けでも大人を笑かすような要素って必ず入ってましたよね。

巻来「そうなんですよね。昔は特撮もそうでしたからね。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』っていうのは裏テーマが凄く膨大で、戦う怪獣にしてもただ悪いじゃなくて、その時の社会問題を入れてるんですよ。だから最後に“どう思う?”って投げかけるような言葉で終わる回がいっぱいあるんですよ。僕はそれを見て育った世代なんで、皆さんは大好きかもしれないけど『仮面ライダー』では少し物足りない」

――少年誌の範疇といえば、“児童ポルノ禁止法”に代表されるような、今の表現規制は感じられていますか?

巻来「それは昔からよく聞きますけど、最近特に酷いですね。たとえば当時、平松さんの『ブラックエンジェルス』でも首は自転車のスポークで刺すけど、ぽーんと首を飛ばすなんてことはやってないんですよ。それは編集にも止められて、首は飛ばしちゃいかんってなってたと思うんですよね」

――それが少年誌のラインだったんですね。

巻来「そうしたら、『北斗の拳』がいきなり内臓破裂で体ボーンですからね(笑)。同世代で『ジャンプ』を作ってたから、あの時みんな何をやりたいと思ってたかがわかりますよね。『ブラックエンジェルズ』は『必殺仕掛人』で、経絡秘孔を突いて頭ドッカーンてのは『スキャナーズ』だし、『マッドマックス』みたいなキャラばっかりいろんな作品に出てきてたし(笑)」

――そう言われてみると時代背景が見えてきますね。エロ表現についてはどうですか?

巻来「ただ僕は昔の人間で、今問題になってる“ロリコン趣味”っていうのが微塵もない人間なんで、うまく語れないっていうのはありますね。僕は『にっかつロマンポルノ』や劇画で育った世代なんで、今の世代からは“変態”って言われているようなものが好きでしたね。池上遼一の描く女性が好きだったし、あとはやっぱり……さいとう・たかをですよ! 僕は一番最初に性に目覚めたのはさいとう・たかをの『ゴルゴ13』ですから」

――性の対象としてのさいとう・たかをですか!

巻来「××作戦の時に“ゴルゴが後ろに立った裸の女性を殴る”っていうので、さいとうさんが描く裸の女に小学生の時に興奮してた記憶があります(笑)。あとは永井豪、石ノ森章太郎ですね、石ノ森さんの『009ノ1(ゼロゼロクノイチ)』なんて、乳首からマシンガンが出て、あれ凄い漫画ですよ(笑)。そういう世代だったので、エロもいろいろ混じってて複雑というか。やっぱりいろんなことが自由に描けた時代だから、おもしろいんですよね。たとえば今だったら、エロを描くのでもお金が優先するので、“この漫画家には描かせる、この漫画家には描かせない”というのがあるっていいますよね。そういうのは、聞いててすっごい寂しいですよね……。別に“どんな漫画家にだって描かせていいじゃん!”って思いますよ」

■人気投票からこぼれ落ちた怪作『メタルK』の真実】

K-maki.jpg画像は、『メタルK』(Beaglee)

 

――『メタルK』という作品は、今の巻来さんの名刺にも描かれていますが、ご自身からしても特別な作品なんですか?

巻来「そうですね、あとファンが多いんですよ。たった10回しかない作品なのに、とにかく『メタルK』『メタルK』言われるんで、どんどん自分の中でも凄い作品になっていくんですよね。“あの頃頑張って描いていたなぁ”っていう思い浮かんできて」

『メタルK』は婚約者に両親を殺され、自らも生きながらにして焼き殺された冥神慶子が、サイボーグとして蘇り、ドロドロに溶けたその外皮《硫酸鞭》を武器に、男たちへの復讐をみせるという作品である。怨念に満ちたダークな設定はもちろん、そのグロテスクな描写も当時の連載陣の中で異彩を放っていた。

――まず、とても『ジャンプ』とは思えない過激な設定ですよね。

巻来「僕らが見てきたエンターテインメントは、映画『悪魔のえじき』(1978年)のように、“レイプされて復讐”ってのが基本なんで、『メタルK』も“レイプされて焼かれて殺される”、これでいこうと。“これくらいいかないと復讐の怨念は盛り上がらないだろう!”って、今考えると“そこまでしなくても盛り上がるだろう”って思いますけどね(笑)」

――また、巻来さんの作品には、オカルト的な表現も多く見られますよね。

巻来「漫画がおもしろくなるためにはなんでも使うという気持ちでやってましたけど、それで失敗したりもけっこうしましたけどね。『メタルK』なんて実在する『薔薇十字団』を悪の組織として出していましたが、今では慈善的な活動をしてるようなところですからね。しかもそのマークもホンモノをそのまんま描いてる。当然出版社には抗議の電話もきていたみたいなんですが、あの歴戦の学生運動の闘士の松井さんが、『なんかきたけど、“漫画だから”って言って切ったよ』って(笑)。漫画家を守ってくれる意識は強かったですね」

 そして、この作品がもうひとつカルト的な人気を誇っている理由に、“不可解な連載打ち切り”の問題がある。今では広く知られているように、『ジャンプ』は、完全な読者人気投票によって、連載の《継続/打ち切り》を決定してきたといわれている。しかし、『メタルK』はなんと連載2回目から巻末に移動、まるで“即刻の打ち切りが決まっていたかのような”扱いだったのだ。巻来氏はそんな状況の中でも必死に格闘し、5回目以降は人気が急上昇したという手応えもあったという。しかし結果は10話で連載終了。その間、たったの2カ月半である。

――『メタルK』は、人気投票が上位にある状態で、打ち切りになったと言われていますね。

巻来「ええ、それでも終わっちゃったんです。僕は改めてこの間の出版記念ライブで“人気が上がってきたところだった”と聞いて、また衝撃を受けちゃったんですよね」

 そう、先日の出版記念イベントの日に登壇した編集某氏の明かすところによると、「2位か3位だった」のだという。

巻来「そうそう、だからまた怒りがムラムラとね……今もう一回この本を描き直したらもっと凄いものになってると思う(笑)」

――当時の連載陣はかなり凄かったと思うんですが、その中の2位、3位ですからね。

巻来「もうオールスターですよ。『北斗の拳』『キャプテン翼』『シティハンター』『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『魁! 男塾』『ついでにとんちんかん』『ろくでなしブルース』『バスタード!』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』……」

 天真爛漫、健康的な大作に紛れて、女サイボーグによるドロドロのSF復讐劇が上位に君臨していたのだから、少年たちの欲求には、大人たちは理解できない部分も存在していたことは間違いないだろう。あの時、もう少し続いていれば、『メタルK』が、『ジャンプ』の世界観を一変させる、そんな伝説的ヒット作のひとつになる可能性もあったのかもしれない。

 しかし、巻来氏の『ジャンプ』作家としてのキャリアは、これまた不可解なことにすぐに再開された。半ば強制的とも思われた連載終了直後、巻来氏にはすぐさま新連載の枠が用意されていたのだ。

g-maki.jpgゴッドサイダー』Amazon Services International, Inc.

 不本意ながら人気作となった『メタルK』を見て、編集部の都合で切るには惜しい作家だと判断したのか、とにかく新連載はすぐに始まった。神と悪魔の間の子である主人公・鬼哭霊気が宇宙制服を目論むデビルサイダーに立ち向かう“宗教バトルサーガ”、『ゴッドサイダー』である。前作にも増して、オカルト方向に寄ったこの作品は、テーマ、ストーリーの複雑怪奇さ、メタファーに満ちたエログロ描写で、巻来功士氏の代表作となった(その後『鬼哭忍伝霊牙』『ゴッドサイダーセカンド』『ゴッドサイダーサーガ 神魔三国志』と数多くの続編・スピンオフ作品を生むことになる)。

巻来「その時に好きだったのが『堕靡泥の星』っていう佐藤まさあきさんの劇画なんですけど、それに影響されている部分がありましたね」

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