『LOVE【3D】』ギャスパー・ノエ監督が明かす、“愛と性”を3Dで描いた理由
リアルサウンド
【リアルサウンドより】
近親相姦を描いた初の長編作『カノン』(98)、約9分にわたるレイプシーンが波紋を呼んだ『アレックス』(02)、TOKYOを舞台にしたトリップ・ムービー『エンター・ザ・ボイド』(09)。寡作ながら、作品を発表するたびにカンヌ国際映画祭をはじめ世界中で大きな物議を醸し、と同時にファンからは絶大なる評価を得てきたギャスパー・ノエ監督の最新作『LOVE【3D】』が、4月1日に公開される。本作は、アメリカ人青年マーフィーと、彼のかつての恋人エレクトラの2年にわたる愛と性の日々を、3Dで描いた作品だ。リアルサウンド映画部では、プロモーションのために来日したギャスパー・ノエ監督にインタビューを行い、本作を3Dで描こうと思った理由、作品内で登場するセリフの持つ意味、そしてエンドクレジットに記載された著名監督たちとのエピソードを語ってもらった。
『LOVE【3D】』と『エンター・ザ・ボイド』と『アレックス』の主人公には相通じるところがある
(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
ーー前作『エンター・ザ・ボイド』で来日された際のインタビューで、「次回作は3Dポルノをやるかも」と言っていましたが、それが今回の作品になるわけですね。
ギャスパー・ノエ監督(以下、ノエ):まあ実際はポルノ映画じゃなくて、センチメンタルな映画なんだ。自分の身を守るためにポルノと言っておいたほうが自由な感じがするから、あの時はちょっと過激にそう言っただけだよ。最初に「セクシャルなことも描く」と言って、その結果として過激なことをやってしまうと、出資者から「ここはカットしろ」とかうるさく言われてしまうからね。最初に極端なことを言っておけば、割と自由に編集や撮影ができるようになるのさ。
ーー今回の作品はタイトル通り、3D映像で『LOVE』が描かれています。このようなテーマを3Dで描くということについて、昨今の3D映画に対する監督なりのカウンター的な意味合いも含まれているのでしょうか?
ノエ:ハリウッド映画へのカウンターという意識は特にないな。でも、若い頃に僕が好きでよく観ていたSF映画やホラー映画、アメリカの大作映画に最近は疲れてきてしまっていて、退屈だなと思っていたのは事実だ。僕はもともと3D技術にすごく興味があって、好きな作品も多い。特に『ゼロ・グラビティ』のように3Dの使い方が成功していれば、素晴らしい作品になる。映画学校時代には、いろいろな撮影トリックやテクニックを学び、新技術にもすごく興味があったんだ。『アバター』が出てきた時には、3Dでこんなにクオリティの高いものができるのかと感心して、自分もいつか3Dで作品を撮ってみたいと思った。ただ、3D映画の場合、撮影や編集、ポストプロダクションにかけて、とにかくかなりの費用がかかってしまう。でも今回は、3D技術を含めた最新技術を用いて映画を製作する際、フランス政府が助成金を出してくれるという制度がちょうど始まり、それに応募して幸いにも助成金を得ることができたんだ。その助成金のおかげで2Dとの差額分ぐらいはまかなえたから、そこまでお金をかけることなく低予算でできたってわけさ。撮影もフランスで5週間だけで撮ったけど、3Dの英語作品で、有名な音楽もたくさん使って、割と高額予算映画に捉えられることも多いから、それは嬉しく思うよ。3D作品はメガネをかけた時に、まるでトンネルの中に入ったみたいに周りが気にならなくなるよね。そして現実的に感じられるものと非現実的に感じられるものが混在していき、観客も特殊な体験ができる。そういった遊び心にも興味があって、今回のような3D作品に挑んだんだ。ちなみに、君が試写で観た時は画面が暗く感じなかったかい?
ーーいや、暗いとは思いませんでしたが……。
ノエ:3D映画には少し残念なところがあって、メガネの調整具合のせいで、映画館によっては暗く見えてしまうことがあるんだ。うまく調整できている映画館だと、鮮やかなところは鮮やかに映るのが、うまく調整できていない映画館だと、全体がどんより暗くなってしまう。映画館によってそういうばらつきがあるのが、3D映画の残念なところでもある。
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ーー本作の主人公マーフィーは映画監督を目指しているという設定で、彼の部屋の中には様々な映画のポスターが飾ってあり、映画に関する話もいくつか出てきます。マーフィーという役柄には、監督自身の経験や考え方が投影されていたりするんですか?
ノエ:この作品は僕の自伝というわけでは決してないので、マーフィー=僕ではない。ただ、僕の若かりし頃の要素が一部入っている。それに加え、周りの友人たちのいろんな要素をパズルのように組み合わせて、複合的に取り入れた人物なんだ。でも基本的には、僕とテイストの似ている弟分的な存在かもしれない。僕自身、馬鹿げた行動を取ることはたくさんあるが、それ以上に間抜けな行動を取るような存在としてマーフィーは描いている。この映画の中心人物はマーフィーのように思われるが、ストーリーのカギとなっている中心人物は、実はエレクトラのほうなんだ。もちろんマーフィーにも重要な役割があるし、僕の一部も入っているので、彼の心理状況もよくわかる。それからマーフィーの秘密をひとつ明かすと、実はこの映画は『アレックス』と『エンター・ザ・ボイド』と同じタイミングで構想を練っていたんだ。だから、『アレックス』のマルキュス、『エンター・ザ・ボイド』のオスカー、そして『LOVE【3D】』のマーフィーにはどこか似通った部分があって、相通じるところがあるんだ。
ーーマーフィーの部屋の中には『エンター・ザ・ボイド』のラブホテルの模型が置いてありましたよね。
ノエ:そう、あれはまさに『エンター・ザ・ボイド』の時に作ったものだ。『エンター・ザ・ボイド』で出てきたホテルには「LOVE」という文字が書かれていた。それが今回の作品のタイトルと同じということもあって、使うことにした。『エンター・ザ・ボイド』のラストでは、主人公が「LOVE」と書かれたホテルの中に入って行くシーンを描いたから、実は今回の作品はその模型からズームアップして、そこから始まるようにしようとも思ったんだ。でも、あまりインパクトのある始まり方にならなかったから、そのアイデアは採用せず、マーフィーとエレクトラのラブシーンから始めることにして、ストーリーの中間ぐらいに、あの模型がマーフィーの部屋の中にあるという設定にしたんだよ。
(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
ーー冒頭で「メガネを装着してください」とアナウンスが出るのも面白く感じました。
ノエ:あのようなアナウンスは通常、劇場側が知らせるものだが、今回僕が入れたのには理由がある。多くの作品では映画がスタートする際、製作に関わった会社のロゴが出てくる。今回の作品には、比較的たくさんの会社が関わっていたから、ロゴがバンバン出てくると観客も疲れてしまうし面白くないと思ったからだ。映画がスタートしたぞと注意を引くために、「メガネを装着してください」というアナウンスを入れた。その後、本編はラブシーンで始まるが、あのラブシーンは最初のシナリオでは話の中間に使う予定だったんだ。ただ、結構長いラブシーンで、その前後にもラブシーンが続くため、観客に「またか」と思われて、彼らを疲れさせてしまう危惧もあった。だからあのシーンを冒頭に持ってきたんだ。いきなりあんなシーンから始まるというインパクトのあるオープニングになったので、その点は非常に効果的だったよ。
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