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『LOVE【3D】』ギャスパー・ノエ監督が明かす、“愛と性”を3Dで描いた理由

「国柄によって笑いが起こるシーンが結構あった」

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(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .

ーー後半、バーでマーフィーの友人がマーフィーに対して、「アメリカの独占欲はフランスでは通じない」と言うシーンがありましたね。映画全体を通して、アメリカの性概念に対するメッセージ的な意味合いも含まれていたんでしょうか?

ノエ:セリフは元から用意していたわけではなく、俳優たちに即興でやってもらったことが多いんだ。シナリオにはシークエンスごとの設定だけを書いていて、もともとは7ページしかなかった。セリフは一切書かなかったんだ。で、あのシーンのセリフはこの作品のフランスの配給会社であるWild Bunchの社長、ヴァンサン・マラヴァルによるものなんだ。実は彼は、警察署でマーフィーを尋問をする警察官役で出演もしている。あのシーンは最初、シナリオでは想定していなかったんだけど、彼のアイデアでやってみたら結構面白かったから、そのまま採用することにした。あのシーンはアメリカではかなり笑えてもらえたよ。でもマーフィー役がアメリカ人である必要は特になかったんだ。この映画を英語で撮ろうと思ってたからアメリカ人にしたわけで、英語圏の人であれば別にイギリス人でもカナダ人でもよかった。だから僕がアメリカ人に対して何かしらのメッセージを向けているわけではない。でも、ヴァンサンは仕事上、アメリカ人とビジネスをすることも多いから、ビジネスにおいても支配欲が強いアメリカ人に対する、ヴァンサンの隠れた思いがセリフに表れているのかもしれないね(笑)。

ーーなるほど(笑)。

ノエ:でも君が指摘してくれたように、あのシーン以外にも国柄によって笑いが起こるシーンも結構あるんだ。例えば、そのヴァンサンも出演している警察署での尋問シーンで、アメリカ人であるマーフィーが「Fucking France」と言いながら、「1981年に戦争に勝って以来、何も成し遂げていない」と言うセリフがある。あのセリフはマーフィー役のカールの即興で、ドイツやデンマークでは、あのシーンで笑いが起こって拍手をしてもらえたんだ。フランスは第二次世界大戦の戦勝国みたいな素振りで戦勝国側のテーブルについていたけど、実はフランスはドイツに協力をしていた。だから、ドイツやデンマークの人たちは「本当は勝者じゃないくせに勝者ヅラしやがって」みたいな思いもあって、あのセリフに共感したんだろう(笑)。セリフに関してはそういった即興が数多く入っているけど、俳優たちには1分ぐらいのシーンでも、1時間ぐらいいろんなパターンをやってもらって、撮り溜めたものを編集時に選択していったんだ。だから、どのパターンを使えば映画にとって最も効果的かを考えるのは、ドキュメンタリー以上に大変な作業だったよ。もともとはもっとセリフが少なくて、もの哀しげな映画にしようと思っていたんだけど、俳優たちの即興が面白かったからセリフが増えていったというわけさ。

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(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .

ーーエンドクレジットのTHE DIRECTOR THANKS欄では、ニコラス・ウィンディング・レフン監督ら、ノエ監督と親交のある監督たちの名前が記載されていましたね。ひとつお伺いしたいことがあるのですが、レフン監督の『ドライブ』のエレベーターのシーンの演出はノエ監督がアドバイスをされたという話を聞いたことがあるのですが、本当ですか?

ノエ:いや、それは違うんだ。ニコラスの『ドライブ』がカンヌ国際映画祭に選出された時、カンヌの経験がなかった彼は、カンヌのコンペがどういうものか体験談を知りたくて、その時ニューヨークにいた僕に聞いてきたんだ。『ドライブ』で、エレベーターの中で人を殺すシーンは『アレックス』からインスピレーションを受けているとニコラスは言っていて、お互いすごく気が合ったりもして結構いろんな話をしたよ。カンヌの体験談としては、すごい面白いところでいろんな経験ができるというようなことを話した。その後、カンヌ国際映画祭のためにカンヌに行ったら、たまたま彼に会って、またいろんな話をしながら一緒に飲み交わしたんだ。そのちょうど2日後に彼が監督賞を受賞したんだよね。ニコラスは受賞時のスピーチで、作品に携わった人たちの名前を挙げながら、「そして最後に、もちろんギャスパー・ノエにも感謝する」ということを言ったんだ。僕は映画に関わったわけでもアドバイスをしたわけでもなく、ただカンヌの経験者として、体験談を話しただけなのに。まあ、授賞式の2日前に再会したこともあって、ニコラスは友情を込めて僕の名前を言ってくれたんだろう。

ーーレフン監督以外にもジョン・カーペンター監督やマーティン・スコセッシ監督らの名前が載っていましたね。

ノエ:ニコラスも含め今回のエンドクレジットで僕が名前を載せた監督たちは、映画の中で間接的にその存在を感じられたり、何かしら協力をしてくれた人たちで、彼らに敬意を払う意味でエンドクレジットに名前を載せたんだ。ジョン・カーペンター監督は、映画の中で彼の楽曲を使用させてもらった。楽曲を使用する際、使用料を高くふっかけてくるところも結構あるが、彼はすごく良心的な値段で提供してくれたんだよね。マーティン・スコセッシ監督については、マーフィーの部屋の中に『タクシードライバー』のポスターが貼ってあるんだけど、ポスターを使う許可をもらうためにマーティンに電話をしたら、「いいよ」と言ってくれたんだ。映画学校の学生でもあるマーフィーは、『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロに憧れていて、映画の中では彼と同じようなジャケットを着ているので、そこにもスコセッシ監督の存在感が感じられるようになっている。

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(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .

ーーマーフィーが好きな映画として『2001年宇宙の旅』を挙げていますが、確かノエ監督もそうでしたよね?

ノエ:そうなんだ。僕が映画監督としてやっていきたいと思うようになった作品や、影響を受けた作品はたくさんあるけど、その中でもマーフィーが言及している『2001年宇宙の旅』は、僕のすごく好きな作品で、映画をやるきっかけにもなった作品だ。デヴィッド・リンチ監督の『イレイザーヘッド』にもすごく影響を受けたよ。ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の『ソドムの市』もすごく好きな作品だし、ルイス・ブニュエル監督の『アンダルシアの犬』にもすごく影響を受けている。スタンリー・キューブリック監督については、映画の中でもマーフィーが「『2001年宇宙の旅』が好き」と言うから、敢えてエンドクレジットで名前を入れる必要はなかった。リンチ監督については、実は『イレイザーヘッド』に出てくる「In Heaven」という楽曲をエンドクレジットの時に流そうと思っていて、彼に許可までもらっていたんだけど、この作品がカンヌで上映されることが決まり、最後のツメの作業をしていた時に、最終的に違う曲に変更したんだ。「In Heaven」を流してしまうと、歌詞に気を取られすぎてしまって、注意が削がれてしまうと思った。だから結局、映画の中に出てきたバッハの曲を最後にもう一回流すことにしたんだ。でも、曲の使用許可までくれたから、リンチ監督には敬意を表して名前を入れている。パゾリーニ監督については、『ソドムの市』のポスターがマーフィーの部屋のベッドの天井に貼ってある。そこでポスターが映るから、パゾリーニ監督も敢えて入れていない。『アンダルシアの犬』は、もともとエレクトラの部屋にポスターが貼ってあったんだけど、よくよく考えてみたら画家志望の彼女の部屋に映画のポスターが貼ってあるのはおかしいなと思って、結局ポスターが映ったシーンはカットしてしまったよ。

ーーエンドクレジットには若松孝二監督の名前もありました。

ノエ:60年代〜70年代に、過激なラブシーンのある映画を作っていた若松孝二監督は、普段の生活の中にあるものを映画でやってもいいんだということを示してくれた先輩として、名前を入れた。彼とは個人的な交流もあって、フランスや日本で会ったり一緒に食事をしたりする、すごく気の合う仲間だったんだ。彼は自身の監督作以外にも、素晴らしい映画の製作に携わっていた。大島渚監督の『愛のコリーダ』もそのひとつで、あれほど肉体的な性愛関係を斬新に描いた作品はそれまでなかったんだ。僕はあの終わり方だけは賛同できなくて、あまり気に入っていないんだけど、それ以前の情熱的な性愛関係の描き方は、僕の感覚と全く同じで、とても共感しているんだ。大島監督のあの作品が世に出たのは、若松監督のおかげもあるので、彼の名前は絶対に載せようと思ったんだよ。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『LOVE【3D】』
4月1日(金)より、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
監督・脚本・編集・製作:ギャスパー・ノエ
撮影:ブノア・デビエ
音楽:ケン・ヤスモト
VFX:ロドルフ・シャブリエ、マック・ガフ・リーニュ社
出演:カール・グルスマン、アオミ・ムヨック、クララ・クリスティン
配給:コムストック・グループ
配給協力:クロックワークス
原題:LOVE 3D/2015年/フランス・ベルギー合作/英語/スコープ/135分/R18+
(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
公式サイト:http://love-3d-love.com/

最終更新:2016/03/28 09:00
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