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『ドロメ』内藤監督が語る、Jホラーとアメリカンホラーの融合「主人公の成長物語でもある」

【リアルサウンドより】

 森川葵と小関裕太がW主演を務め、内藤瑛亮監督がメガホンを取ったダブルアングルホラー映画『ドロメ』が現在公開中だ。本作は、とある高校の演劇部部員たちが、部活の合宿中、謎のモンスター“ドロメ”に襲われていく姿を描いた青春ホラーで、同じ時間軸で進行する男子と女子の物語を、2つの視点、2本の作品として制作された“シンクロ・ムービー”。『先生を流産させる会』『ライチ光クラブ』など、これまで少年少女の内面にスポットを当てた作品を数多く手掛けてきた内藤瑛亮監督に、『ドロメ』の斬新な手法や作風がどのように生み出されたのか、話を聞いた。

「限られた制約の中から生まれたアイデアでした」

ーー『ドロメ』をダブルアングルホラーで撮ろうと考えたきっかけを教えてください。

内藤瑛亮(以下、内藤):プロデューサーからの二本立てのホラーを作りたいって依頼からはじまりました。ただ、予算的には1本を撮るのも大変って感じだったので、別々の物語を撮るのは厳しくて、そこでワンシチュエーションで起こるひとつの物語を、ふたつの視点で撮るなら大丈夫だろう、と。限られた制約の中から生まれたアイデアでした。

ーー視点を分けたことで、それぞれの作品を見た時の発見が楽しめました。

内藤:一本観ただけでは解明できない謎を入れたいと考えていました。こういった企画でなければ出来ない仕掛けなので。霊現象だと思っていたものが実は人為的なものだったり、妙な行動をする背景には幽霊がいた、みたいな。視点を少し変えると物語の印象もガラッと変わりますし、幽霊描写としても新鮮なものを作れたと思います。

ーーほかに、プロデュース面での要望はありましたか?

内藤:若いキャストを使いたい、制服風の衣装で撮りたいなどのオーダーもありました。でも、学園ホラーで制服はありきたりだし、『ライチ光クラブ』も学生服だったので、そこは避けたいと思って、高校の演劇部の設定を思いつきました。個人的にジャージ姿が好きなんです。それに「制服風の衣装」というオーダーもコスプレ感というニュアンスだったので、演技部だったらメイド服やロリータファッションを着させることもできるし、それが最終局面で戦う時の戦闘服みたいにも見えるかなって(笑)。

ーー商業映画としての制約を、うまく活用している印象ですね。

内藤:僕としてはその制約との戦いが面白いというか。決まった枠があるからこそ、その中で自分なりの色やアイデアを出していく楽しさがあるし、ギリギリのラインを狙っていくことで、もともと想定していなかった面白いものが生まれてくることもあります。一方で、もっと自由に作りたいって思いもあります。濱口竜介監督の『ハッピーアワー』、橋口亮輔の『恋人たち』、小林勇貴監督の『孤高の遠吠』、塚本晋也監督の『野火』など、昨年公開された面白い日本映画の殆どが自主映画あるいはインディペンデントな体制で制作されていました。監督がどうしても語りたい話を語っている印象があって、そんな監督の覚悟や切実さが、映画の緊張感に反映されていて、凄く刺激も受けました。どの作品も劇場で観たんですけど、客席からお客さんの熱気を感じて、みんなこういう作品に飢えてるのかな、と感じました。制約の多い商業映画を観客も窮屈に感じ、監督の個人的な欲望がはっきり現れている作品が観てみたい、という気持ちが潜在的にあるのかもしれませんね。

「『ドロメ』は転換点で、新しいことに挑戦したという自負もある」

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ーー今回の『ドロメ』も、監督の色はすごく表れていたと感じました。

内藤:制約はありましたが、内容については割と自由にやらせていただきました。『先生を流産させる会』『パズル』『ライチ☆光クラブ』を観てきた人からすると、今回は「妙に明るい」と驚かれることがあります。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映した時も、田代尚也監督や鈴木太一監督から「内藤さんの映画でこんなに笑いが起こるなんて」と言われました(笑)。

ーーなぜ明るい作品を作ろうと?

内藤:十代の鬱屈した感情が過剰な暴力に結びつく物語を撮り続けてきたし、今後もやっていくテーマですが、今回に関してはいままでと違うものを撮ろうと意識的に取り組みました。同じことの繰り返しをしていては、表現として劣化していくって、自分自身への危機感も感じていました。自分の中で『ドロメ』は転換点だと思っていて、新しいことに挑戦したという自負もあります。ずっと少年少女たちの視点にこだわって撮り続けてきて、いままではそれぞれの欲望が破滅していく方向にしか描いていなかったのですが、今回初めて少年少女たちの姿を肯定的に描けたと思うので、それは嬉しいです。

ーーホラーというよりもコメディに近い印象でした。

内藤:ジャパニーズホラー(以下、Jホラー)の要素を取り入れつつ、僕が幼い頃から慣れ親しんだ80年代のアメリカンホラー的な物語を描こうと考えていたら、こうなりました。主人公から成長を奪い、幽霊を人間には絶対倒せない存在として描くことで怖さを生み出しているJホラーに対して、アメリカンホラーは主人公が成長して最後は幽霊やモンスターを倒しちゃうんですよね。『ドロメ』は入り口がJホラーなんだけど、実はアメリカンホラーで、主人公は成長し、最後は敵を倒して明るく笑い飛ばします。意図としては『ショーン・オブ・ザ・デッド』が近いかもしれません。コメディだけど根っこにあるのは悪ふざけだけではなく、オリジナルの精神も引き継ぎつつ、主人公の成長物語にもなっているみたいな。『ドロメ』も幽霊やクリーチャーの存在に怖がるのではなく、それらに怖がって盛り上がる少年少女たちのわーきゃーしている姿を観て面白がってほしい。幽霊もドロメも校舎に迷い込んできた犬と同じで、絶望的な危機ではなく楽しいトラブルで、あくまで彼らの学生生活に彩りを与えた存在でしかないんですよ。

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ーー男子女子全員でドロメをボコボコにするシーンは衝撃的で、ここには監督が描き続けてきた少年少女の狂気も感じられました。

内藤:ある意味、いままでの中で一番暴力的な描写かもしれないですね(笑)。このシーンは映画学校時代から温め続けているアイデアで、「→Pia-no-jaC←」が演奏するベートーベンの第9を聴いた時に、モンスターをフルボッコにするイメージが浮かんだのがきっかけでした。最後は学園祭のフィナーレみたいにスカッとする終わりにしようとした結果、スカッとを通り越えて可哀想な感じになってしまいました。最初の想定とは違いますが、可哀相過ぎて笑っちゃうっていう面白さがあって、これはこれでアリだな、と。

ーー今回は珍しく血の描写が一切ない、というよりも泥が血の役割を果たしてました。なぜ泥を使ったのですか?

内藤:貞子や伽椰子って役者を白塗りにすることでモンスターとして成立するので、予算規模が小さい日本映画にとって、経済効率が高いアイデアなんです。そこで、泥塗れならどうだろうと考えたんです。ゾンビ的な描写もありますが、泥を吐き出したり、飲ませたりって、フレッシュな見せ方もできる。血がダメな人でも受け入れらるし。あと、泥ってモチーフには日本らしい土着的な雰囲気が感じられるのも面白いな、と。口から吐き出す演出は『牛乳王子』でもやっていて、口から吐いたものを人にかけるとか、吐かれたもので人の顔をぐちゃぐちゃにするのは、ある意味、性癖に近いものがありますね(笑)。水っぽい泥なら、ねちょねちょぐちょぐちょしているし、吐き出す素材としては最適です。

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ーー男子編、女子編では友情の描き方やホラーの仕掛けを明確に分けていましたね。

内藤:女子編の方は精神不安定者を中心に置いた古典的なホラー形式。そこからコミカルなホラ―に転換していく。男子編はバカ騒ぎする男連中を中心に進行していきます。『21ジャンプストリート』とか、アメリカンコメディを意識しました。ちなみに、男子編の子離れできない幽霊の設定は、『悪の華』の押見修造さんからお聞きした体験談を拝借しました。劇中にフェイスブックで好きな異性のことを調べるシーンがあるんですけど、女子は恋愛話に繋がるのに、男子は犯罪を連想してしまうとか、そんな男女のリアクションの違いの面白さも盛り込んでます。脚本は僕と松久君(松久育紀)が書いているので、女子の部分は多少皮肉や妄想が入っているとは思いますが。

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