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松江哲明の『COP CAR コップ・カー』評:ケヴィン・ベーコンを正面から撮れば、良い映画は作れる

【リアルサウンドより】

 『COP CAR コップ・カー』は、ケヴィン・ベーコンが主演と製作総指揮を務め、新『スパイダーマン』シリーズの監督に抜擢された新鋭ジョン・ワッツ監督が手がけた作品で、一見すると地味なのですが、まさに“拾い物”といっていい傑作でした。ジョン・ワッツ監督の前作『クラウン』は、イーライ・ロスがプロデュースを手がけた作品とのことで、ヒューマントラストシネマ渋谷で観たんですけれど、正直、さほど印象には残りませんでした。しかし、本作はそのときのイメージとは全然違う。もし、これがデビュー作であれば、それこそ“驚異の新人”と銘打って売り出されたんじゃないかと思えるくらい、センスが炸裂しています。

 まず、本作がおもしろいのは、ケヴィン・ベーコンひとりしかスターは出ていないのに、様々な映画の要素がうまく採り入れられていること。悪徳警察官に追われるサスペンスであり、『スタンド・バイ・ミー』を思わせるような少年たちの成長物語であり、さらにデヴィッド・リンチ的な不条理性もある。それでいてどこか寓話的で、映画の魅力がぎゅっと凝縮されているんです。

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 一方で、脚本や演出には一切無駄がない“巧い映画”でもあります。そもそも、この脚本の脚本の面白さを見抜いて、プロデューサーまで買って出たケヴィン・ベーコンの眼力にも脱帽です。決して派手な物語ではないから、よほどセンスが良い監督が撮らないと、グダグダな映画になりかねないのですが、ちょっとしたカメラワークや演出、演技のプランが絶妙で、とても“観せる”作品に仕上げている。また、背景の説明も必要最小限で、ケヴィン・ベーコン演じる警官がなぜ、屍体を運んでいたのかさえ描かない。しかしながら、少し観ただけですっとその世界に入っていけるように、隅々まで演出が行き届いています。それによって、ケヴィン・ベーコンは単に頭のおかしい警官ではなく、非常にクレバーな一面を持った恐ろしい大人として映るし、男の子同士の関係性も活きてくる。

 また、本作を優れた作品にしている要素のひとつに、カメラの位置の適切さもあります。ただベタッと撮るのではなく、どこかに不穏さを感じさせるカメラワークで、観ていて緊張感があります。映画的な快楽を追求している、と言い換えることもできるでしょう。たとえば、広い荒野をシネスコのロングで捉えて、フレームの中に車が入ってくる様をじっくり撮ったり、縦の構図で見せたり、すごく映画らしい絵作りをしています。子供たちがパトカーを運転するシーンも、彼らのわくわく感をうまく伝える一方で、観客には「あ、危ない!」と思わせるように描いたり、細かい気配りが効いているんですね。そのカメラワークをちょっとでも間違えたら、ビデオスルーの未公開映画になっていたと思いますが、とにかく演出が巧くて、平均点以下のショットは絶対に撮らないという気迫があります。

 銃撃戦のシーンも非常に素晴らしいです。最低限の発砲数でタイトに描いているんですが、その開始の合図となる一発がとにかく鮮烈。それほど長いシーンではないけれど、あれで十分なんですよね。最小限で最上の効果を生んでいる粋な演出だと思います。やはり映画の基本は引き算ですよ。

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 ジャン=リュック・ゴダールが「車と銃と女があれば、一本の映画が作れる」と言っていますが、この映画はまさにそういう作品です。車が動いて、銃での撃ち合いがあって、女はシーバーの声と、あのおばさん。それだけの映画なのに、ものすごく面白い。映画が本来持っている、しかし誰も解明できていない不思議な魅力を受け継いだ、ある意味では古典的な作品と言えるでしょう。2016年のいま公開されている映画だけど、10年前にあっても不思議ではないし、それこそ70年代にあってもおかしくない。この映画がそうした魅力に満ちていることに気付いたケヴィン・ベーコンは、やはりすごいと思います。たぶん、もし彼が製作総指揮を務めていなかったら、「もっと派手にした方が良い」とか口を出す人が出てきて、駄作になっていたかもしれません。しかし、最低限の演出にとどめることで、絶妙な作品になっています。

 実は、この映画を観る直前に『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を観たんですけれど、個人的にははっきり言って『COP CAR コップ・カー』の方が断然面白かった。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は、いろいろと面白くない理由はあるんですけれど、なんといっても交通整理がうまくいっていなくて、原作のコミックの世界観を大事にしているのか、映画としての魅力を大事にしているのか、よくわからなくなっていました。ところどころで事故が起こってしまっていて、がっかりする部分が多かったです。ザック・スナイダー監督はセンスのある監督だと思うし、『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『300 〈スリーハンドレッド〉』、『ウォッチメン』なんかは文句のない傑作だったと思います。しかし、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は、大人の事情が見え隠れして、うまく着地させることができなかったという印象です。そのガチャガチャした絵作りを観たあとということもあって、おそらく何百分の一の予算で撮った『COP CAR コップ・カー』の方が、余計に面白く感じました。たとえるなら、『COP CAR コップ・カー』はそれほどスピードは出ていないけれど、助手席に乗っていてすごく気持ち良い車。この運転に身を任せてずっと乗っていたいと思わせるんですね。一方、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は渋滞に巻き込まれて、一刻も早く降りたかったです。

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