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『スポットライト』、社会派映画としての価値ーーあまりにも大きな“悪”をどう描いたか

【リアルサウンドより】

 史上空前の混戦と言われた第88回アカデミー賞で、作品賞と脚本賞に輝いたのがこの『スポットライト 世紀のスクープ』だ。作品賞受賞作が2部門しか受賞していないという『地上最大のショウ』以来の半世紀以上ぶりの事態が、2015年の賞レースの混戦具合を証明したわけだが、製作される作品数も増加し、また評価を受ける作品の多様化が進んでいる現代では、いささか納得のできる話だ。裏を返せば、候補に挙がった作品はどれも秀でていて、その中で群を抜いて作品自体を評価するに値したのが、本作だったということでもある。

 近年の社会的な関心は政治や戦争といった問題に向けられ、『アメリカン・スナイパー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』が、戦争映画というジャンル付けはされたといえ、まっとうな社会派路線の映画として絶賛を浴びた。今年の作品賞候補に挙がっていた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のような経済問題に関しても、2008年のリーマンショック以降に注目を集めた題材だ。しかしそれ以上に、西洋文化に何百年も根ざしてきた「教会」というものに対しての関心は、決して流行り廃りでもなければ、一時的な不安の対象でもない。もはや生活の一部であり、言わば家族のようなものである。だからこそ、アンタッチャブルな題材になりやすく、非常にナイーブで難しいテーマである。

 長きにわたりカトリック教会が隠してきた性的虐待問題を、2002年に告発したボストン・グローブ紙の記者たちの奔走が描かれる本作を見ると、社会派映画がこれまで担ってきたジャーナリズムの意義を再認識する。数年前に日本でも紹介されたドキュメンタリー映画『フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜』では、本作と同様にカトリック教会の性的虐待問題を取り上げられていた。同作はアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞の候補にあがっていたが、受賞したのは当時世間の関心の的であった環境問題を描いた『不都合な真実』であったわけだ。

 『フロム・イーブル』はドキュメンタリーという性質上、直接的に不正を暴き出し問題提起を我々にしたわけだが、劇映画である『スポットライト』は、それを行う人々を描きながら、世間にその問題の存在を示したということだ。社会派映画は常に、問題と観客の間にワンクッション置くことで、手に取りやすく、それでいて理解されやすい道筋を築いてきたのだ。もっとも、巨大な敵のスキャンダルを暴き出すジャーナリスト達の姿を描いたという点で、アラン・J・パクラの傑作『大統領の陰謀』と比較されているようだが、個人的にはそうは思わない。この映画が描いていることは、エリア・カザンの『紳士協定』だ。

 1947年にアカデミー作品賞を受賞し、日本公開はその40年後という最も呪われた作品賞受賞作である『紳士協定』が描いていたのは、他民族国家アメリカにあってはならない人種差別を、身を以て体験する記者の物語だ。間違っているとはわかっていても、誰もが慣例として見て見ぬ振りをしてきたことを、命がけで変えようとする者を描くドラマは、まさに本作と同じだ。『スポットライト』における“紳士協定”は、神父が悪事を行うはずがないという信頼に他ならない。

 劇中で登場する被害者のほとんどが、自分が受けた性的虐待を誰にも言えずにいた。それは子供が親にそれを訴えたところで、神父様がそんなことをするはずがないとあしらわれたり、神父様がしたことだからと目を瞑られていたためである。そうでなくてもこのような被害を受けたことを、人に言うことは憚られるものである。被害者たちは大人になるまでそれを隠し続けて生きてきた。そのため、知らず知らずのうちに事態は隠蔽され、絶対的な“悪”の存在は有耶無耶にされてしまってきたのである。

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