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ベテラン海外ドラマライター・幕田千宏の「すごドラ!」

過熱するアメリカ大統領選より目が離せない、野望の嵐!『ハウス・オブ・カード』

 オバマ大統領も安倍首相もスピーチで話題にするほど、多くの政治関係者がチェックしている『ハウス・オブ・カード』。クリントン元大統領などは「このドラマで描かれていることは、すべてリアル」と大絶賛していたが、野心を実現するためなら、他者を利用することなど屁とも思わず、また自ら手を汚すのも厭わないフランクが歩む道は、シーズンを重ねるほどに死屍累々の様相を呈していく。これがリアルならマジでヤバいと思えるほどだが、きっちりエンタテインメントでありながら、「もしかしたら……」と思わせてしまうのが、このドラマのスゴいところ。フランクの非道さはまさにヴィラン(悪役)としか言いようのないえげつなさだが、その一方で彼が有能な人物であることも、紛れもない事実。少なくとも、野望のためにまい進する彼の行動にはブレがない。フランクがたとえどれほど冷酷非道でも、その有能さと野心に対する行動力はまっすぐで、いやが上にも引き込まれてしまう。フランクは時折視聴者に語りかけ、本音を見せていくが、そのおかげで見る者にとって彼は裏がない人物となる。政治家の二枚舌にうんざりしている国民には、裏表がない彼は、ある意味で理想的な政治家なのだ。

 もう一人、強烈な存在感を放つのが、フランクの妻のクレアだ。NPO法人の代表を務める彼女も、フランクに負けず劣らずの野心を持ったキャリア志向の人物。そんな彼女だからこそ、ただおとなしく夫についていくはずもなく、自身のキャリアのために夫の立場を利用するくらいのことは余裕でかますしたたかさを持ち合わせている。フランクが政敵とのバトルで形勢不利になってヘコんでも、生半可な励ましなどせず、より一層フランクの野心に火をつけるように燃料を投下していく。もちろん彼女自身の野心も、シーズンが進むにつれどんどん肥大化し、フランクと共に野望の道を驀進していく。

 そう、このドラマは政治ドラマであると同時に、フランクとクレアの夫婦愛を描いたドラマでもある。とはいえ、その夫婦愛は、お涙ちょうだいの感動巨編で描かれるようなものとは完全に一線を画している。2人は野望の道を共に歩む戦友であり、共犯者だ。野心にくるまれたその強烈なパートナーシップは完璧な夫婦でありながら、理想の夫婦とは程遠い。完璧と理想の違いをまざまざと体現する2人の関係は、だからこそ人間くさく、それがまたドラマの魅力へと通じている。

★このドラマにハマった人におすすめ!
・『ザ・ホワイトハウス』
・『スキャンダル』
・『タイラント 独裁国家』

●まくた・ちひろ
映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

最終更新:2017/01/24 14:19
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