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フジロックSEALDs奥田出演に「音楽に政治を持ち込むな」と炎上させたバカどもは音楽とフェスの歴史を学び直せ

 また、同時期、公民権運動の高まりのなかでソウルミュージックが黒人たちに与えた力もまたとてつもなく大きい。ジェームス・ブラウン「セイ・イット・ラウド、アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」、サム・クック「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」といった歌が、黒人差別問題に怒りを覚える人々の心を癒し、そして勇気を与えた。その影響力は、キング牧師やマルコム・Xのスピーチにも負けずとも劣らぬ力をもっていたと言ってもいい。

 その後、70年代や80年代以降の音楽を語るうえでも、政治や社会状況との関係は切り離して語ることなどできない。パンクやニューウェーブがイギリスで発展したのはサッチャー政権下で切り捨てられた労働者階級の人々の怒りがあったからであり、ヒップホップを生んだのはレーガノミクスと都市再開発で見捨てられたニューヨークのスラム街の黒人であり、ハウスミュージックはシカゴのディスコで性差別と戦っていたゲイたちが生み出し発展させてきた音楽であった。「音楽に政治を持ち込まない」のであれば、パンクもヒップホップもハウスもそもそも誕生すらしないことになる。

 音楽と政治が不可分なのは、日本のポップミュージックにおいても同じだ。60年代後半は岡林信康や高田渡、加川良といったメッセージ性の強いフォークソングが全共闘運動の中で大きな役割を演じたし、その後も、70年代は頭脳警察、80年代はアナーキー、ザ・スターリン、そして90年代のソウル・フラワー・ユニオンと、政治的メッセージを発し続けるロック、パンクバンドが次々登場した。

 また、日本では原発に対して異議を申し立てる曲も非常に多い。ザ・ブルーハーツ「チェルノブイリ」、RCサクセション「サマータイム・ブルース」、佐野元春「警告どおり 計画どおり」、ランキン・タクシー「誰にも見えない 匂いもない」。3.11後であれば、斉藤和義「ずっとウソだった」、長渕剛「カモメ」、RUMI「邪悪な×××」、KGDR(キングギドラ)「アポカリプスナウ」、制服向上委員会「ダッ!ダッ!脱原発の歌」など、枚挙に暇がない。海外でも66年のフェルミ高速増殖炉事故をテーマにしたギル・スコット・ヘロン「ウィ・オールモスト・ロスト・デトロイト」といった楽曲はあるが、我が国においてその数はことさらに多い。

 フジロックという野外音楽フェスは常に社会的なメッセージを訴え続けたフェスであり、ロックやヒップホップといった音楽もまた、常に社会的なメッセージとは不可分な存在であった。

 ようするに、「音楽に政治を持ち込むな」などというバカげた発言をするのは、「ロックにロックを持ち込むな」と言っているに等しいのだ。

 だが、こんなバカがはびこるようになったのは、音楽業界の側にも責任がある。1990年代のインディーズブームが終わって以降、日本のロックやフォークは芸能界ビジネスに完全に絡めとられてしまい、アーティストたちまでが「政治的なものはちょっと……」というテレビや芸能プロの論理をもつようになっていった。そしてとうとう、「ロックフェスに政治を持ち込むな」という、おそらくは音楽と無関係なネトウヨが仕掛けた炎上がフツーに受け入れられるような状況になってしまったのだ。

 そのうち、ロックフェスでは恋と友情と親孝行のことしか歌っちゃいけない、なんていう時代がやってくるかもしれない。
(新田 樹)

最終更新:2016/06/22 07:30
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