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『プロレスという生き方』著者インタビュー

「棚橋弘至にありがとうを言いたい」プロレスキャスター20年目の結論

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■高田vsヒクソンからすべては始まった

――しかし、『プロレスという生き方』というタイトルがいいですよね。読めば「プロレスラーという生き方」ではないところに、非常に納得がいきます。

三田 ありがとうございます。考えたのは、編集の方なんですけど(笑)。

――古いプロレスファンはよく、「プロレス道とは何か」みたいな言い方をしますよね。プロレスは単なるプロスポーツじゃなくて「道」、つまり生き方が問われているのだと。その意味でも、トップ選手から裏方まで網羅した人選は、「プロレス道を体現している人たち」として、かなり考えられていると思いました。

三田 そこは自分でも意識していなかったところですけど、確かに、ただ単に「プロレスラーの魅力を紹介する本」とは考えていませんでしたね。棚橋選手の言葉で、「ファンやマスコミの方も含めてプロレス界なんですよ」というのがあって。これは本当にそうだなと思います。

 プロレスというものに触れて人生が変わったり、日々が楽しくなったりした人って、いっぱいいると思うんです。それは私のようなマスコミの人も含めて。そう考えると、プロレスはもちろんプロレスラーのものではあるんですけど、プロレスラー“だけ”のものでもないんですよね。

――あと、「プロレス道」という視点を強く感じたのは、この本の1行目が1997年の「高田延彦VSヒクソン・グレイシー」(PRIDEの第1回大会)で始まるところなんですよ。「プロレスラー最強」と評されていた高田がヒクソンに負けたことで、この1戦から「プロレスの不遇時代」と「総合格闘技の大ブレイク」が始まったわけじゃないですか。

 実は、浅草キッドさんも『お笑い 男の星座』の書き出しを「高田vsヒクソン」から初めているんですね(正確にはリベンジマッチとなった1年後の試合。ただし、プロレスファンに与えたショックという意味では、三田さんと同じ意図で記されている)。

三田 なるほど、それは存じ上げなかったのですが書き出しをPRIDE.1にするってことは、かなり前に決めていました。

――この前年にプロレス番組のキャスターになった三田さんは、もともとプロレスに興味がなかった。でも高田の敗戦にショックを受けていることに気づいたとき、「プロレスキャスターという仕事を続けていく覚悟ができた」と書かれています。三田さん個人にとっても、それだけ重要な1戦だった。ただ、それでも「最近のプロレスブーム入門書」という意図で書かれた本であれば、この導入にはならないと思うんです。

三田 わかります。新しい今のプロレスファンからしたら、「これって何の話?」「高田延彦ってすごい人なの?」となってもおかしくないですからね。私も「入門書」の書き出しとしては異質だと思います。でも、あの1戦から20年にわたるプロレスの困難が始まり、自分自身のキャリアも始まっている。だから、この書き出ししかないと思っていました。

■なぜオカダカズチカが入っていないのか?

――プロレス道の体現者が敗れたことで、業界全体の衰退が始まり、世の中は総合格闘技に熱狂していった。しかし三田さんは、逆境の只中でも、「それでもプロレスが一番すごいんだ」と覚悟を決めて立て直してきた人たちに寄り添ってきた。そんな彼らのリングの内外における姿を三田さんが描いたことで、この本にはその歴史が記されている。

三田 本当にプロレスがやりたいんだけど、時代の流れもあってプロレスに専念できず総合格闘技への参戦を余儀なくされた「第三世代」の人たちがいて、さらにプロレスに専念できない環境が嫌だから新日本を辞めていった武藤敬司さんたちがいて。一方で、新日に残された若手である棚橋選手は、実直にプロレスをやっていくことを選んだ。(※筆者注:棚橋はもともと武藤敬司の付き人であり、全日本への移籍を断った経緯がある)

 総合格闘技に人気で押されていく中でも、みんながそれぞれの立場で、「プロレスはなくなってないですよ。格闘技がブームですけど、プロレスだって面白んですよ」ということをアピールしてきた。その歩みが20年という時間に詰まっています。

 女子プロレスでも里村明衣子さんとか、さくらえみさんとか、それぞれの方法で、実直にプロレスの面白さを広めてきた人たちが、結果として今も残っている。そんなプロレスラーのみなさんが歩んできた20年間の「道」をちゃんと遺しておきたいというのは、この本を書くにあたって確かにありました。

――そんな「20年間の歩みの体現者たち」という意味での人選だから、この本に新日本のエースであるオカダ・カズチカが入っていないのかなと思ったんです。今のファンは「なんでオカダが入っていないの?」と思うかもしれないけど、「高田vsヒクソンの衝撃をいかに乗り越えてきたか?」という歩みの本として捉えたら、すごく納得できます。

三田 オカダ選手も今だったら書けると思うんですけど、執筆を始めた頃は、「彼に何かを背負わせることをしていいのか?」という迷いがあって。非常に特殊な経歴の方で、今どき中学校を出ていきなりプロレス界に飛び込み、しかもデビューはメキシコ。日本のプロレス界から隔離されていたところを、その才能を獣神サンダーライガー選手に認められて新日本に入った。

 そんなとても面白い方ではあるんですけど、書き始めたときって、まだ「レインメーカー」というキャラクターが全面に出ていて、そういう素の部分をどこまで書いていいのかわからなかったんです。でも、先輩の中邑真輔選手が退団してからは、言動からも「自分が新日本を背負うんだ」という覚悟が見えて、プロレスラーとしてだけじゃなく、人としてもすごく魅力を感じます。

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