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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.383

反日思想とも自虐史観とも異なる歴史サスペンス!“猟奇的な花嫁”チョン・ジヒョン主演作『暗殺』

ansatsu0714_02舞台は1933年の京城(現ソウル)。速射砲、アン・オギュン、爆弾職人の3人は、日本の政府高官と親日派の実業家の暗殺計画を実行に移す。

 オギュンが自分の命と引き換えに逆襲の場に選んだのは、政略結婚の披露宴会場だった。当時の最新トレンドスポットだった京城三越百貨店で日本軍関係者と親日派の来賓が集まって盛大な披露宴が催されるが、この披露宴にオギュンは大胆にも花嫁に扮して潜入。純白のウェディングドレス姿のオギュンは花束ブーケに隠した拳銃で、武装解除していた日本の軍人たちを次々と射殺する。晴れやかな結婚式場が一瞬にして血の海に変わっていく、衝撃のサプライズ演出! 映画史に残る血まみれの結婚式だと言っていいだろう。『猟奇的な彼女』ならぬ“猟奇的な花嫁”の誕生である。

 実はこのオギュン、双子という設定になっている。サスペンス映画で双子設定は禁じ手だが、禁じ手を使ってまでもチェ・ドンフン監督は2つの青春を描きたかった。オギュンと姉の満子(チョン・ジヒョン2役)は幼い頃に生き別れとなり、オギュンは満州の寒村で抗日ゲリラとして育った。一方の満子は親日派の実業家である父親のもとで、自分の幸せに疑問を抱くことなく成長した。運命の糸によって手繰り寄せられたオギュンと満子の間に、2つの異なる価値観が激しく火花を散らし合う。オギュンは貧しいながらも気高い戦士として育った。対する満子は洗練された美しい女性だが、韓民族としてのアイデンティティーは持っていない。年頃の女性らしくオシャレして恋愛も経験してみたいとオギュンは心の底で願っており、満子は自分が失ってしまったアイデンティティーを懸命に求めようとする。双子の想いがまるで太極旗の陰と陽のように渦を巻き、ウェディングドレスに身を包んで銃を乱射するという最強の女コマンドーへと双子は変貌を遂げる。

 オギュンが表の主人公なら、裏の主人公はオギュンたち暗殺部隊を京城まで導いた韓国臨時政府の警務隊長ヨム・ソクチン(イ・ジョンジュ)だ。ソクチンは若い頃は抗日ゲリラとして名を馳せたが、日本軍に捕まった際に命乞いをして二重スパイになっている。オギュンたちの暗殺情報を日本側に流していたのはソクチンだった。朝鮮人を人間扱いしない胸くそ悪い日本人も登場するが、それ以上に悪辣なのが、祖国と日本とを天秤に掛けるソクチンや自分の野心のために妻や子どもを平気で殺してしまう親日派の実業家たちである。朝鮮半島がずっと強国の支配下にあり、今も分裂国家のままなのは、自分の利益のことしか考えず、同胞同士で足を引っ張り合う輩があまりにも多すぎるためだと本作は物語っている。

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