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ベテラン海外ドラマライター・幕田千宏の「すごドラ!」

ディープ・サウスだから成立!? カオスすぎるヴァンパイアドラマ『トゥルーブラッド』

 現在、アメリカで大人向けのファンタジー・ドラマが人気になっていることは、以前『ゲーム・オブ・スローンズ』を紹介した際にも触れたが(参照記事)、『ゲーム・オブ・スローンズ』と並んで激押ししたいファンタジー・ドラマが『トゥルーブラッド』だ。ファンタジーというジャンルではド定番ともいえるヴァンパイアドラマである本作。だが、その内容は、まったくもって一筋縄ではいかないクセものだ。

 舞台は、日本人が開発した人工血液によって、ヴァンパイアが人間と共存できるようになった世界。闇に隠れていたヴァンパイアたちは、いまや堂々と人間たちの前に姿を見せるようになっている(といっても、太陽の光には弱いので、活動時間は相変わらず夜だが)。もっとも、人間にとってはヴァンパイアが命を脅かす存在であることは変わらず、彼らの存在を疎ましく、そして恐怖に感じる人も数多い。一方で、ヴァンパイアの血液が強力な幻覚作用を持つことから、「Vドラッグ」と名付けられた血液目当てにヴァンパイアにすり寄る者、もしくは狩る者たちもいる。

 そんな奇妙な緊張をはらんだ世界だが、ルイジアナ州の小さな町にあるバー、マーロッテでウエイトレスをしているスーキーは、一人のヴァンパイアに興味を示す。人の心を読むことができるという能力を持つスーキーは、そのせいで苦労が絶えなかったが、ある夜やってきた男、ビルだけは心を読むことができなかった。彼がヴァンパイアだと知っても、その想いは抑えることはできず、2人は急速に惹かれ合っていく。

 ストーリーの最初こそ、ヴァンパイアと人間のロマンスという、典型的なゴシック・ロマンの要素を強く打ち出している本作だが、ドラマはストーリーが進むに連れ、予測のつかない展開の連続で混沌を極めていく。小さな田舎町で起こる連続殺人事件、そこから生まれるヴァンパイアと人間の軋轢、恐怖からヴァンパイアを迫害する人間たちと、人(?)権運動を繰り広げるヴァンパイアたちのせめぎ合いが起こったかと思えば、ヴァンパイアの間でも内部抗争が勃発し、こうした混沌がさらなる混沌を呼び込んでいく。

 スーパーナチュラルな存在もヴァンパイアだけにとどまらず、シェイプシフターや狼人間、シャーマンに妖精、挙げ句に古の神まで現れ、ちっぽけな田舎町にどれだけの超常現象が起こるのか、思わず首をかしげたくなるものの、それを妙に説得力のあるものにしているのが、ディープ・サウスと呼ばれるルイジアナ州を舞台にしたことだ。

ディープ・サウスといえば、南北戦争のその昔から人種差別問題を抱え、ドラマのタイトル・シークエンスにもチラッと登場するが、かつてはKKKが幅を利かせていたりした土地柄。そのルイジアナ州の中でも都会のニューオーリンズではなく、さらに田舎の、小さな町を舞台にしたことで、何やら怪しげなことが起こっていても不思議ではない空気を演出しているのだ。

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