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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.400

誰よりも盤上で奔放に、極太に生きた男の伝説! 松ケン主演のノンフィクション映画『聖の青春』

satoshinoseishun0027冠を制した羽生善生(東出昌大)と竜王戦で激突。「東の羽生、西の村山」と呼ばれた2人の対局は大いに注目された。

 李相日監督の力作『怒り』の撮影中は体を絞っていた松山だったが、『聖の青春』のクランクインまでの2カ月間で体重を18キロ増量し、村山のぽっちゃり体型へと肉体改造した。森監督がストップを掛けるまで、松山は増量を続けた。『三月のライオン』を愛読し、棋士たちと交流があった東出昌大も出演を希望し、演じることは容易ではない羽生役を引き受けた。東出は羽生の細かいクセや表情をコピーし、羽生本人から愛用していたメガネを譲られるなど、徹底した役づくりに打ち込んだ。本人たちに成り切った松山と東出が、村山vs羽生の死闘をカメラの前で再現してみせる。

 映画の中盤、竜王戦という大一番を終えた村山は羽生を誘って近くの大衆食堂に入る。酒を交わし合いながらの、お互いのこれまでの棋士人生についての感想戦だった。普段はクールな羽生が好敵手・村山に心を開くこのシーンが何とも味わい深い。棋盤を海に例える羽生は「あまりに深くまで潜ると、戻ってこれなくなりそうで怖くなる。でも、村山さんとならどこまでも潜っていけそうだ」と語る。天才にしか見えない光景がある。村山は大天才・羽生にその光景を一緒に見ようと誘われたのだ。棋士として、こんなにうれしい言葉があるだろうか。村山にとって、大衆食堂で呑んだこの日の酒は人生最高の味だったに違いない。

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