日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > どこか懐かしい『カピウとアパッポ』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.401

初めて逢うのに、どこか懐かしいアイヌの人たち。極上の音楽体験ドキュメント『カピウとアパッポ』

kapiapa03大ゲンカした翌日の姉妹。佐藤監督は「ここは撮らないでということはなかった。表現者としての大らかさが彼女たちにはあった」と語る。

 姉妹は日々の仕事に追われながらライブの練習に励むが、彼女たちを取材している佐藤監督も似たような状況だった。長い助監督時代を経て、テレビドラマで監督デビューすることはできたが、逆に監督になると食べていくことが難しくなる。一度は映像業界を離れてタクシードライバーに転職したが、ずっと胸の中にモヤモヤしたものが残っていた。若い頃に考えていたアイヌの映画を撮ろう。タクシー業と並行する形でアイヌの取材を再開し、そんな中で絵美と富貴子に出会った。食べていくための大切な仕事と生きていることの証である自己表現の両立。それは姉妹だけではなく、佐藤監督自身の命題でもあった。

 本作のクライマックスを飾るのは、カピウ&アパッポのデビューライブだ。釧路のライブハウスに、姉妹を昔から知っている人たちが集まり、アットホームな雰囲気の中でライブが始まる。深酒して大ゲンカした姉妹だったが、本音を出し合った翌日からは仕事のちょっとした合間を縫って練習や打ち合わせを重ねてきた。大人になってから姉妹でステージに立つのは初めてゆえ、ライブスタート時は緊張感が漂う。だが、姉・絵美が歌い始め、妹・富貴子が後を追うウコウク(輪唱)スタイルのアイヌウポポが進むにつれ、2人の息が見事なほどに合ってくる。いつもはカジュアルなかっこうをしている2人だが、アイヌウポポを歌っているうちにアイヌコタンで生まれ育った姉妹としてのアイデンティティーが発露されていく様子がはっきりと分かる。

 アイヌウポポはアイヌの言葉ゆえ、歌詞はまるで聞き取れない。佐藤監督が姉妹に教えてもらった訳詞がテロップで流れ(姉妹も完全には分かっていないらしい)、それによるとカムイ(神)が降りてくるから、カムイが座る場所を作ろう、といったシンプルなものだ。代々歌い継がれてきた古い歌の中に、アイヌの自然観、宗教観、生活観がしっかりと息づいている。姉妹の歌声に耳を澄ませているうちに、どこか懐かしい世界に帰ってきたかのような奇妙な感覚に陥ってくる。それはアイヌウポポやムックリなどのアイヌ楽器の演奏によってトランス状態になったのか、それとも故郷の生家を失った人間のノスタルジアがもたらした幻想風景なのか。カピウとアパッポの懐かしい歌声に、酩酊している自分がいることに気づく。
(文=長野辰次)

kapiapa04

『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』
企画・監督・撮影・編集/佐藤隆之 音楽/メカ・エルビス(サイバーニュウニュウ) 製作/office+studio T.P.S、オリオフィルムズ 
配給/オリオフィルムズ 11月19日(土)~12月2日(金)渋谷ユーロスペースにて21時よりレイトショー公開 http://www.kapiapamovie.com

ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真