【劇場アニメレビュー】カラフルな映像とポップなダンスと“東映カラー”が映える、東映アニメ60周年記念作『ポッピンQ』レビュー!
また現実世界で素直になれない少女たちは、非現実世界に身を置くことで、ようやく自分に素直になり、それぞれの苦難の要素と対峙する勇気を持ち合わせていくようになる。
「ファンタジーとは逃避のメディアである」とは、かつて某巨匠監督が発した厳しいお言葉ではあるが、逃避することによって初めて見出せるものもあることは、2016年における久々の人気TVドラマとなった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)にならうわけではないものの、この世知辛い現代社会を生きる、特に若者層は理屈ではなく、肌で感じていることでもあるだろう。そう思うに、本作の現実と虚構の融合は決してマイナス要素をもたらすものではない。
さらには英語タイトル“POP IN Q”が示すように、カラフルな映像世界とポップなダンスの躍動感は,今を生きる少女たちをさらに引き立たせ、いつしか非現実の中での青春リアリティといったものまで描出されていく。
惜しむらくはストーリーそのものにさほどの新味がないことで、先の展開が読みやすいといったきらいもあるのだが、それもまた、実写も含めて一つのパターンを重んじる東映カラーと甘く捉えることにした。
正直、『白蛇伝』に始まる東映アニメーションの歴史のほとんどにつきあってきている身にとすれば、この題材で60周年記念作品と銘打つことにちょっと物足りなさも感じてしまうのが本心でもあるのだが、一方で東映アニメーションは一貫して子どもたちのための作品をメインに作り続けてきた。そう振り返ってみると、決して今回もそのラインを外れていない安定感を買ってもいいのかなとも思う。
若い声優陣が揃う中、羽佐間道夫のような大ベテランがさりげなく登場したかと思えば、ヒロインの母親役・島崎和歌子の素人丸出しの発声ながら高知弁のイントネーションだけは誰にも負けてないといった個性にヘタウマの好感を抱く。
続編を作るなり、TVシリーズを始めるなり、そういった展開も期待してみたい、気持ちのいい佳作である。
(文・増當竜也)
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