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【messy】

労基署の是正勧告に反論したエイベックス松浦勝人社長が、「加筆修正」で微調整した箇所

 本サイトを読まれる方が日頃手にすることがないであろうオヤジ雑誌群が、いかに「男のプライド」を増長し続けているかを、その時々の記事から引っ張り出して定点観測していく本連載。

 大手レコード会社「エイベックス・グループ・ホールディングス」が、昨年末、三田労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受けている。その報道を受けたエイベックスの松浦勝人社長の往生際が悪い。自身のブログに「納得できない」とつらつら書き綴っている。

 「現時点の決まりだからもちろん真摯に受け止め対応はしている」とした上で、「法律が現状と全く合っていない」と続け、他にもこういう会社はある、自分たちが目立っている会社だからこそこういう目に遭ってしまう等と弁解した後で、「今はとにかく矛盾だらけだ。僕の法律知識なんて乏しいから間違っていることを書いているかもしれない。しかし、納得できないことに納得するつもりはない。戦うべき時は相手が誰であろうと僕らは戦う。それが僕らの業界とこの国の未来のためだと思うからだ」と、支離滅裂なことを書いている。「間違っていることを書いているかもしれない」のならば、まずは持論が正しいかどうかを精査すべきだと思うのだが、それをせずに、僕らは戦う、この国の未来のために、と言われても、戦隊ヒーローモノじゃあるまいし、空疎に響く。労働基準法に基づく是正勧告を受けたらならば、未来と戦う前にただただ是正してほしい。

 この夢見がちな弁明を、佐々木亮弁護士が「弁護士ドットコムNEWS」で冷静に片している。「テレビなどメディア関係者などには、『働きたい人が好きなだけ働く』ということがありがちです。それは結構なことです。しかし、そんな人でも働きすぎれば死んでしまう。だからこそ、そういうことを防ぐために労働基準法の規制があるわけです」。松浦は同ブログで「美容師の人達、学校の先生、、、自分の夢を持ってその業界に好きで入った人たちは好きで働いているのに仕事を切り上げて帰らなければならないようなことになる」と言っているが、こういう「夢」の使い方に、是正勧告される理由がそのまま映し出されてされているように思える。

 教師の業務過多が問題視されていることを受けて、文部科学省は今月頭、全国の教育委員会などに対して、中学校の運動部の部活動について、休養日を適切に設けるように通知を出した。なんと、国公私立全体で週休ゼロが22.4%、週1日休みが54.2%との数値が出ている。2014年のOECDのデータで、日本の教員の一週間あたりの勤務時間は34カ国・地域の中でトップの53.9時間と、平均の38.3時間を大きく上回った。いくつもの雑務が山積し、長時間労働を強いられる教師の実態は、新聞やニュース番組に1週間でもアクセスしていればどこかで出てくる議題だが、「好きで働いているのに仕事を切り上げて帰らなければならないようなことになる」との見解が教師を代表例に更新されていく。

「今の新入社員に朝まで音楽について語れるやつはいるのか」

松浦勝人(『GOETHE』2017年2月号/連載『素人目線 松浦勝人の生き様』)

 雑誌『GOETHE』の2月号は、年に一度、恒例の秘書特集。容姿端麗な秘書たちをアイドルのように並べておきながら、あくまでも優秀なビジネスパートナーですと配置する記事にサラリーマンの「夢」が詰まっているのかもしれないが、今年の特集では「元秘書たちが激白!『こうして私は妻になった』」なる直接的な企画が組まれているし、妄想チャート「あなたは秘書を落とせてる⁉」のページでは秘書との距離を知る企画を実施しているのだから、そろそろさすがに本性を隠せていない。

 同誌に連載されている松浦の連載『素人目線』を読む。「振幅の狭いやつは、もういらない」と題し、最近の社員は本当に音楽が好きなのか、自分の頃は「遅くまで飲んでも朝早く会社に行く」のが当たり前だった、地道にラジオ局を回ったもんだ、それなのに今の社員ったら「そういう部分は学ばず、楽しそうなところばかり、僕から学んでしまっている」とおかんむり。子会社の社長について、社長という名前はついていてもホールディングス制なんだから「本来だったら事業部長のようなもの」と、誌面を通じて挑発している。CCメールで送ればいいのに、とは思ったが、もしかして、鼻の下を伸ばしながら秘書をゲットする方法を記事にしている雑誌への警告も含まれているのだろうか。

 雑誌の発売日から逆算すれば、このコラムは、労働基準法に基づく是正勧告が報じられる前に書かれたはず。となれば、「日本では労働基準法に守られていて、簡単に解雇することはできない。でも海外の企業だったらとっくにクビになってもおかしくない人が紛れこんでいる。だから、給与体系を大きく変えようと思っている。パフォーマンスの悪い社員は、どんどん降格させ、給与も法で定められた範囲でガンガン下げられるようにする」などの記載は、正直削っておきたかった箇所かもしれない。

 このコラムは、掲載後に自身のブログに同内容がアップされている。ブログの記事タイトルが「『GOETHE』 素人目線 松浦勝人の生き様」なので、雑誌コラムを転載したものだと周知させている。雑誌とブログの両方を読んでいる人は少ないだろうが、両方読んでみると、そのまま掲載されているはずのコラムが一部加筆修正されているのがわかる。雑誌掲載では、先の引用に続けながら「エイベックスは社内格差がものすごい会社になるよね。それでいいと思う」と結んでいるのだが、ブログには「今、言われている残業代だってみなしをやめ正確に法律の範囲内で最大限支払うつもりだ。在宅勤務も導入する。」との文章が加えられている。

 その数日前のブログでは、「好きで仕事をやっている人は仕事と遊びの境目なんてない。僕らの業界はそういう人の『夢中』から世の中を感動させるものが生まれる。それを否定して欲しくない」と威勢良く法規に楯突いているのだが、すっかり従順な加筆修正をしたことで、転載後のコラムは実に切れ味が鈍い。当然、サービス残業はなくすべきで、加筆部分にあるような改善が成されるべき。とはいえ、コラムの全体としては、勧告を受けてもなお攻めの姿勢、と示す内容のままなので、譲歩した加筆をした意図が読めない。

 何よりも、2つを見比べるだけですぐにわかってしまう加筆や、それによる整合性のなさを指摘されないように気をつけたりはしないのだろうか。それとも、(死語を使えば)イケイケの経営者というのは、こういったちょっとした文章の整合性を気にしている暇なんてないのだろうか。精神論と法規を天秤にかけて、精神論をどこまでも稼働させていく判断をするのかと思いきや、ちょこっと微調整をしてみる。それでもなお、「夢中」から世の中を感動させるものが生まれる、という一本調子はブレない。その夢からこぼれ落ちたり、挟まれて窒息したりする人たちが出てくるのだろう。朝まで音楽について語る必要はない。夜は寝よう。そんな当たり前のことを思った。

最終更新:2017/01/16 07:10
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