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【おたぽる】

5年ぶりのワンマンライブを終えて——姫乃たまはアイドルになれたのか?

■アンコール――怒り、そして涙の真相

 アンコールでは、古くから親交のある3人のミュージシャン(JOHN★MANJIRO-metal[Gt.]、msys[Gt.]、STX[Ba.])と一緒に、デビュー曲『三両列車でにゃんだりあ』を演奏しようと準備していた。彼らがすでにセットしてあるはずの楽器を、いつまでもいじっているのでおかしいと思ったら、突然、「僕とジョルジュ」のメンバーが机と椅子、ワインやステーキを持って現われて、私を座らせた。よくわからないまま、客席をバックに集合写真を撮り、労われるままステーキを口に運んだら、舞台に映像が映し出された。 

 有志のファンが制作した『ねえ、王子』をみんなで踊った映像である。若林美保さんにアーバンギャルドの松永天馬さんや大谷能生さん、DARTHRAIDERさんに漢a.k.aGAMIさんと、仕事で関わりのある人たちから、いったいどうやって集めたのか、友人、両親まで映っていた。その合間に踊るファンの人たちが映る。ここで自分の姿を映像で流したかったファンの気概を感じた。私のワンマンライブは、ファンの人たちの晴れ舞台だったのだ。

 お礼として演奏した『三両列車でにゃんだりあ』は、イントロが18歳の時に手売りしていたセカンドシングル『少女の脚を汗が伝う、夏の涼風に制服は翻る。』のイントロにリアレンジされていた。曲の終盤にはハート型の赤い風船が客席後方から、私の元へ降ってきた。舞台はハートでいっぱいになり、私は親友から受け取った大きな花束を抱えていた。

 後にファンの人が、「客席後方から風船出す時、満員で大変でさあ。あんなに人が来るなんて思ってなかったから」と、私より自慢げに話すので笑ってしまった。応援し続けてくれたファンの人たちのおかげです。感謝しています。

*  *  *

 楽屋で、「悔しい」という自分の声を聞いた。モニターには終演後の客席が映っていて、ファンの人たちのはしゃぐ姿が見えた。カメラマンに「涙の理由はなんですか?」と聞かれて、私は「ムカつく!!!」とカメラを睨んで泣いた。誰でも受け入れて、人を幸せにする、姫乃たまのパブリックイメージから、噴出するように私は怒っていた。

 ワンマンライブは紛れもなく幸せな空間だったと思う。私はこれまで、歌うことと踊ることを建前にして、人を幸せにすることを本質に活動してきた。

 この日、歌も踊りも演出も、それをプロデュースしたことも賞賛され、「アイドルとして上にあがったね」と言われ、メジャーレーベルに勧める関係者も何人かいた。熱心なファンは、「間違いなく人生で1番の日だった」と言ってくれたし、出版関係の人たちは、「姫乃さんってアイドルだったんですね!」と驚いていて、勇気を出して初めて足を運んでくれた人たちからは、「救われました」「人生の居場所を見つけました」「なぜかわからないけど涙が出ました」と、ありがたいメッセージをたくさんいただいた(まるで教祖になったみたい!)。握手した時に泣いている女の子がいて、彼女の胸元には私の缶バッチが光っていた。可愛い女の子だった。すべての人の言葉が、感情が、何もかもが純粋だった。

 一方で私は、褒められれば褒められるほど、ファンが幸せになってくれたことを知れば知るほど、胸に残っているわだかまりの理由に気づかされてしまった。自分は今まで、自分よりも人のことを考えて活動してきたつもりだった。それも本当のことだけれど、実のところ私は自分と戦っていたのだ。私は人に認められたいとか認めさせたいとかじゃなくて、ずっと私と戦っていた。ちやほやされたいなんて欲求は、活動を始めたその日に充分満足している。それよりももっと、私は、私に、私を満足させてほしかった。限界を越えた能力を発揮することで、自分を驚かせてほしいと、どこかで思っていたのだ。

 この日ひとりだけ、ミスを起こし続けた関係者がいた。それが結果的にさまざまな人に迷惑をかけることになり、いくつかの大きなトラブルにも繋がった。一度しか面識のない外注の人で、私はどう対応したらいいかわからず、リハーサルの段階からひたすら困惑し続けた。結局私は、舞台に集中するため、ミスを起こすスタッフに途中で見切りを付ける労力を惜しんだ。その結果、本番で他人のトラブルに気を引かれて、限界以上の能力を発揮することはできなかった。もし、きちんと判断できていたら、すべての場面で『くれあいの花』と同じくらいのことが起こっていたかもしれない。私の能力はその程度だった。私は私と戦って、完全に自分に負けたのだ

 打ち上げで涙の真相を聞いた友人が、ぎょっとしながら、「それ、5年前と同じじゃん」と言うので、今度は私が驚いてしまった。自分ではすっかり忘れていたのだけど、5年前のワンマンライブが終わった時、私は「悔しい」と言って泣いていたらしい。笑顔の写真しか残っていなかったので、すっかり忘れていた。

 私は一体、後何百年あったら、アイドルとしての自分に満足できるのだろうか。

●姫乃たま
1993年2月12日、下北沢生まれの地下アイドル/ライター。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。7インチレコード「恋のすゝめ」「おんぶにダッコちゃん」をリリース。

★Twitter<https://twitter.com/Himeeeno

最終更新:2017/03/03 07:15
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