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前田日明は、本当にただの「ヘタクソ」だったか……ベテランプロレス記者が読み解く『1984年のUWF』

 第2次UWF時代の89年10月25日、前田は新人の田村潔司と対戦した。田村は負傷欠場した船木の代役だったが、本気で向かってきた田村に激怒した前田は、顔面に強烈なヒザ蹴りを何発もたたき込み、眼窩底骨折の重傷に追い込んだとされる。同書では、この行為を「エースのやることではない」と断罪している。確かに新人相手にムキになって、ケガさせるのはよくないことだ。ただ、格闘スタイルのUWFだ。前田のことを“ぬるい試合”ばかりやっていたと酷評しているが、既存のプロレスのごとく、新人の技を受けて立っていたのではUWFではなかろう。UWFなのだから、団体のエースが新人をボコボコにして勝利するのは当然だろう。

 総じて、同書の大部分が、すでにほかの書籍や雑誌で書かれた内容を引用したものであるため、既読感が強く、新たな情報は少ないような気がする。プロレスラーへの取材はほぼなく、UWFの元フロントや関係者に聞いた話が多くの部分を占めているだけに、やや物足りなさを感じる面もなきにしもあらず。やはり、読者としては、当時の真実を知る上で、プロレスラーの話をもっと読みたいと思ったのではなかろうか? とはいえ、UWFのことを、これだけ詳細にまとめ上げるのは大変な労力で、その点には敬意を表するし、一読の価値がある本だといえよう。

 同書では、佐山が創設した新格闘技シューティングはリアルファイトで、UWFを含むプロレスはショーだとの表現が盛んに見受けられる。著者が最もいいたかったのは、その部分なのか? 日本で第2次UWFが消滅した後、米国ではUFC、日本ではPRIDEという、いわゆる「何でもあり」の総合格闘技がブームとなった。国内では、プロレスラーVS格闘家の構図に人気が集まり、あくまでも興行の核になったのはプロレスラー。Uインターでは一介の若手選手にすぎなかった桜庭和志が総合格闘技の世界でスターになれたのは、プロレスラーだったからだ。

 どの格闘技も同様だが、プロである以上、観客がいてこそ成立するものであり、エンターテインメントだ。国技である大相撲でさえ、長らく八百長が存在していたことが明らかにされた。この時代に、やれリアルファイトだの、ショーだのと論争しても不毛だし、それも含めて楽しむのが、エンターテインメントであり、プロレスだろう。ただ、単に勝った負けただけで、見ておもしろくなければ仕方がない。リアルファイトを追求しても、観客不在であれば、プロとして成立しない。

 この本で主役となっている佐山は、シューティングを追われた後、プロレス界に復帰。現在でも、リアルジャパン・プロレスの主宰者として、リングに立ち続けている。衰えたとはいえ、その姿を見て、喜んでいるファンが数多くいるのも事実。

 いみじくも、故ジャイアント馬場さんは、「シューティングを超えたものがプロレス」という名言を残した。UWFのスタイルも、総合格闘技での関節技もプロレスの一部分にすぎない。
(文=森岡剛)

1984年のUWF

ほんの一部だ

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最終更新:2017/03/24 20:00
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