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【おたぽる】

心地いい音楽と演出に酔いしれろ! “湯浅政明入門編”にも最適な『夜は短し歩けよ乙女』レビュー

 この時点で『四畳半~』ファンなら既に無問題の内容ではあるのだが、ここで湯浅監督はさらに劇場用映画ならではのダイナミックな作画構成や、台詞も抑えめにするなどの工夫を凝らし、“黒髪の乙女”が過ごす不可思議な一夜を、その実1年くらい優に過ぎてるのではないかと思わせるほどに時空軸を超越させながら、その混乱もまた大きな魅力として、銀幕を大いに映えさせている。

 また『四畳半~』の“黒髪の乙女”(演:坂本真綾)には明石さんという名字があり、顔にほくろもあるクール美女だったが、一方で本作の主人公となる“黒髪の乙女”は、徹底的に天然で明るくほんわかした笑顔美女で(ちなみに、ほくろはない)、その意味でも花澤香菜の声が実によく似合っている。しかし、それでいて周囲の人間を次々と奇妙な事態へ導いていくお騒がせぶりとのギャップは、実に映画向きの愛らしくもファム・ファタール的キャラクターでもあり、そんな彼女の構築がすこぶるうまくいっていることも本作の成功の大きな要因といっていい。

 一見あっさりしているようで実はこってりとした濃密かつレトリックな絵柄は、下ネタの多さまで巧みに微笑ましい印象へと転じさせることに貢献し、自意識過剰な“先輩”の純情までをもより一層引き立てる。後半のゲリラ演劇シーンにおけるミュージカル演出は、そもそも湯浅作品の本質が音楽的であることを証明しており、このセンスは続く『夜明け告げるルーのうた』でもさらに心地よく奏でられていく。

 湯浅作品を見るたびに創作することの“自由”を痛感させられる。かつてはそこに恐怖にも似たけたたましさを感じるときもあったが、ひとたび見る側が心を開きさえすれば、その自由は心地よくも憧れの対象として、どんどんその世界観にはまっていくのも間違いない。

『夜は短し歩けよ乙女』は、そんな彼の入門編として広く門戸が開かれた作品であり、幅広い観客層の支持も大いに期待できる。いずれにしても『夜明け告げるルーのうた』ともども、前年度に続く2017年の国産アニメーション映画の大躍進の象徴として、そしてアニメーションがいくらでも自由になれることを示唆するものとして、湯浅政明監督作品群が今後語られ続けていくことを予見しておきたい。
(文・増當竜也)

最終更新:2017/04/11 07:15
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