日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 『とと姉ちゃん』相楽樹の薄味加減
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

根本宗子が引き出した、朝ドラ『とと姉ちゃん』相楽樹の「薄味加減」

 脚本は根本宗子。戯曲『夏果て幸せの果て』が2016年の岸田國士戯曲賞の最終選考に残った、いま最も勢いのある若手劇作家だ。

 連続ドラマの脚本は、映像サイトGYAO!で放送され、後に映画としても公開された1話13分のWEBドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』を手がけている。女子トイレを舞台に女子中学生たちの自意識を容赦なく描写して笑いと感動をもたらす脚本が、実に見事だった。

『こんにちは、女優の相楽樹です。』でも、根本の鋭い視線が相楽に対し、容赦なく降り注ぐ。

 朝ドラに出演したことを女優としての拠りどころとする相楽が「知らない」「印象が薄い」と言われる場面はまだ笑って見ていられるのだが、「Twitterに上げる写真がつまらない」とか、「グラビアやイメージDVDが地味で、色気がない」というのは思わず「それは言っちゃダメ!」と言いたくなるようなギリギリのラインだ。と同時に、的確すぎて「そうそう!」と、思わずうなずいてしまう。

 だが、そこまでキツいダメ出しをしていながら、見終わった後に嫌な感じがせず、むしろさわやかな気持ちになるのが本作の面白さである。

 根本の女子をいじる目線には嫌な感じがしない。それは、芸能の世界で生きる女の子たちの気持ちに、ちゃんと寄り添っているからだろう。

 00年代に宮藤官九郎が『木更津キャッツアイ』(TBS系)等のドラマでジャニーズアイドルをいじり倒して笑いのネタにすることで、男子校的な連帯感を男子に与えたように、女優やアイドルをいじり倒すことで女子校的な連帯感を女子に与えられるのが根本の才能ではないかと思う。

 では、そんな根本のいじわる目線は、相楽の何を引き出したのか?

『とと姉ちゃん』で相楽が演じた鞠子は、家族を守る長女の常子(高畑充希)と要領の良い三女の美子(杉咲花)に挟まれて、いまいちパッとしない残念さがあった。この三姉妹の関係性自体が、女優としてのキャリアを順調に積み上げ、すでに演技力は折り紙つきだった高畑と、子役時代から実力派女優として高い評価を受けてきた杉咲に挟まれて、どこか自信なさげに見える相楽の立場を、そのまま反映していた。

 だが、いつも自信なさげで、怒られて「ひ~」と気持ちがヘコんだ後でガックリきて、「とほほ」という表情をしている時の相楽の困り顔には、高畑と杉咲の自信に満ちた演技とは違う、ふつうの人の親しみやすさがあった。

 可愛くない、色気がない、街を歩いていても気づかれないと言われてしまう印象の薄さは、キャラの濃さを競わされるアイドルやタレントとしては致命的な弱点に見える。だが、女優として、むしろその薄味加減こそが彼女の武器なのだと、本作は教えてくれる。
(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

最終更新:2017/06/01 18:31
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