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『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第9話 ヘイヨー! ダメ兄に捧げる妹ラッパーのライム

 かつては東京のクラブシーンでそこそこ知名度のあった「極悪鳥」だったが、栃木の野外フェスで警察沙汰を招き、空中分解してしまった。埼玉の片隅で夢を捨てきれずに追い続けた周回遅れの「SHO-GUNG」とは対称的に、ずっと先を走っていたはずの「極悪鳥」はダークサイドに堕ちていった。

 裏ビジネスを2~3回手伝えば、解放してもいいという「極悪鳥」の元リーダー・大河。ここで大河の求めに応じれば、IKKUやTOM、それに埼玉でブロッコリー畑を営んでいる実家の家族をまた裏切ることになる。

MIGHTY「ヒップホップの仁義~。失礼ながらお控えなさって。今度こそ、今度こそ咲かせてみせます、ブロの花~♪」

 裏社会への誘いを断り、ボコボコにされながらもゾンビのように立ち上がるMIGHTY。口から出てくるリリックは全然ラップになってないし、ブロッコリーの花が咲いたら食べられなくなっちゃうよ。でも、MIGHTYは再びダークサイドに堕ちないよう、必死で自分の中のもうひとりの自分と闘っていることだけは充分に伝わってくる。IKKUやTOMを川崎で待たせているMIGHTYは、『走れメロス』の主人公メロスのような心境だった。

 そして舞台は再度、川崎のクラブチッタへ。MIGHTYが当日ちゃんとライブに現われることを信じるしかないIKKUたちだったが、もうひとつ懸案事項が。相棒のTOMがIKKUの心の中を見透かしたようにせっつく。明日はクラブチッタのライブだが、IKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)の結婚式でもある。

TOM「電話しろって。まだ、ちゃんと謝ってないだろ。ずっと後悔するよ。そんな中途半端な気持ちで、明日ライブすんのかよ」

 TOMのお節介で、京都のホテルで独身最後の夜を過ごす茉美にテレビ電話することになるIKKU。子どもの頃からIKKUよりしっかりしており、自分の人生を着実に歩む妹に、今さら愚兄として掛ける言葉が思いつかない。

IKKU「人もうらやむ器量よし~。その名も加賀谷茉美という~♪」

 さっきのMIGHTYもそうだが、IKKUもまるでラップになってない。“バカな兄貴でゴメンな音頭”とでも呼びたい即興ソングを歌うものの、撮影も終盤に入って余裕がないせいか、そうとうにひどい出来。IKKUのかっこ悪さ、全開である。恐ろしくダサい。でも、いつもは口数の少ない兄・郁美が本心を明かしてくれたことが茉美にはうれしかった。スマホの小さな画面の中で、妹ひとりのために顔を真っ赤にして歌う兄はひどくかっこ悪く、そして超かっこよかった。

 ごめんな、お兄ちゃんはまだヒップホップやめられない。幸せになれよ、と締めくくるIKKUに対する茉美の返しが実にクールだ。

茉美「ヘイヨー! ニートなブラザー。明日はかませ~、会場沸かせ~♪」

 10年間、IKKUの隣りの部屋でラップを聴いてきた茉美にも、ヒップホップ魂がほんのりと移っていた。茉美は「TOMさんも明日のライブ、がんばって」と、兄妹仲を気遣ってくれたTOMへの感謝の言葉も忘れない。クラブチッタの芽衣子に加え、「SHO-GUNG」にとって、もう一人の女神がほほえんでくれたライブ前夜だった。

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