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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.432

君がアル中で、どんなキチガイでもいいんだぜ! ゆうばりグランプリ受賞作『トータスの旅』

君がアル中で、どんなキチガイでもいいんだぜ! ゆうばりグランプリ受賞作『トータスの旅』の画像1クライマックスで「いいんだぜ」を熱唱する木村知貴。本作の熱演で、2016年の田辺・弁慶映画祭男優賞を受賞した。

 誰かの葬式に参列し、焼香する度に、中島らもの自伝的小説『バンド・オン・ザ・ナイト』を思い出す。小説の中でらもさんは「葬式には行かなかった。葬式に行かないのはおれの流儀で、あの黒枠に囲まれた写真を見てしまうと、もうほんとうにお別れだと感じてしまう。葬式に行かずに、あの黒枠の写真さえ見なければ、いつかどこかの街でばたっと会うような、そんな気のままでいられるからだった」と語った。らもさんを見習いたくもあるけど、亡くなった人の思い出だらけのままでは生きづらい人もいる。若手監督の登竜門として注目される「ゆうばりファンタスティック映画祭」オフシアター部門で今年のグランプリを受賞したのは、永山正史監督の『トータスの旅』。自分の前から姿を消した大切な人を弔うために七転八倒する男たちのロードムービーとなっている。

 上映時間82分と短い尺だが、中身はなかなか濃い『トータスの旅』。サラリーマンの次郎(木村知貴)が、ひとり息子の登(諏訪瑞樹)と暮らすアパートから物語は始まる。次郎は妻に先立たれてから、ずっと空っぽな日々を過ごしてきた。その空っぽさを隠すために、登の前ではいい父親であろうと努めている。反抗期に入った登は、常識を押しつけようとする父親も学校も大嫌いだった。ある朝、ずっと音信不通だった次郎の兄・新太郎(川瀬陽太)が婚約者の直子(湯舟すぴか)を連れて現われ、「これから結婚式だ、支度しろ」と言い出す。会社に通ってはいるものの心は虚ろな次郎と不登校状態が続いていた登を連れて、強引に車中旅に向かう新太郎と婚約者。登が生まれる前から次郎が飼っているペットの亀も一緒だ。

 人前で常に常識人であろうとする次郎と自称芸術家である新太郎は性格が真反対で、旅行中ことごとくぶつかり合う。この兄・新太郎役を演じている川瀬陽太は、インディーズ映画やピンク映画に猛烈に出まくっている個性派俳優。冨永昌敬監督の『ローリング』(15)やピンク映画『犯る男』(15)に主演し、2016年度の「日本映画プロフェッショナル大賞」男優賞を受賞している。今年に入ってもオールタイロケ作品『バンコクナイツ』(17)や入江悠監督の深夜ドラマ『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)などの注目作に次々と出演しており、社会からドロップアウトした変人・奇人役をやらせると、とても美味しい風味を醸し出すオッサン俳優である。『トータスの旅』でもファミレスで次郎に絡んできたゴロツキをスリーパーホールドで締め落とし、旅先の見知らぬ他人の家にお邪魔してお風呂をいただき、式を挙げる前の直子との青姦に励む。本能の趣くまま、新太郎はやりたい放題だ。

 自由奔放な新太郎に無理矢理連れ出された次郎は、旅の目的地が近づくにつれて顔がこわばっていく。新太郎と直子が結婚式を挙げる予定の島は、次郎と妻が式を挙げた思い出の地でもあった。しかも、妻が交通事故で亡くなった忌わしい場所にも近い。兄に散々振り回され、息子の登は相変わらず自分に心を開いてくれない。次郎が唯一安らぎを覚えるのは、妻と一緒に世話をしたペットの亀だけだった。でも、次郎の心の拠り所だった亀は、旅先で姿を消してしまう。いくら探しても亀は見つからない。それまでずっと理性を守り続けてきた次郎だが、暴風雨の到来と共に感情がぐしゃぐしゃになって爆発する。

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