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【総力ルポルタージュ】

行ってみて聞いてわかった 御朱印帳のネット転売で、なぜ宮司は「もう来ないで下さい」と書いたのか

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■地域と氏子と共に歩んできた守谷神社

 下村の鎮守の宮司として、地域に住む人々に喜んでほしいという思いには、確固たるものがあった。そのことをより強く感じたのは、社務所の案内に掲げられている、御守りの種類の多さに話が及んだときのことだった。

「失礼ですが、この規模の神社にしてはかなり多い……」

「もともとは、御守りはあまりなかったのです。ところが、お詣りされる方に“こういうものはありませんか”と聞かれることが多かったんです。そこで、毎年“じゃあ、来年は、それも作りましょう”と、繰り返していたら、あんな数になったんです」

 取材を通して語られる下村の言葉には、幾度も「地域の」「氏子の」というワードが出てきた。なぜ、そんなにも地域を大切にする確固たる意志を持っているのだろう。

 それがわかったのは、下村に神職になった理由などを尋ねたときだった。

「もともと、自分はデザイナーをやっていたんです」

 それを聞いて、少し驚いた。

 この守谷神社は総鎮守でありながら、明治時代から長らく無人で、隣町に住む宮司がお祭りのときにだけやってくる神社だった。ところが、18年ほど前、先代に跡継ぎがいないとなったときに「守谷市の方に継いでもらいたい」という話になり、地域の住民であった下村に縁が繋がったというわけだ。

 もともと、地域の住民として祭りには熱心に参加していたという下村だが、宮司として神社に奉職するというのは、まったく未知の領域だった。神職養成講習会(神社本庁や各都道府県が実施している神職を養成する講習会。主に神社の跡継ぎが対象)で、神職の資格は得た。講習会は、大学の神道学科と違い1カ月ほどで資格を得ることができる。だからといって、便利なインスタント養成システムなどではない。言うなれば、資格は与えるから、あとは現場で見て覚えなさいというわけなのである。

「階位をもらったらいきなり、氏子さんに先生と呼ばれるようになって……これは大変だと思って、必死に神社について学んだです」

 守谷市で常駐の神職は下村と、あともう一人だけだという。なりたてとはいえ、さまざまなお祭りや祈願などを行う機会は多い。本人の経験年数にかかわらず、神事をお願いした側は「神主さんに来て頂いた」と見ている。それは想像以上に重責だっただろう。けれども、その重くて大切な神事やお詣りする人々、氏子との触れ合いの中で、下村は次第に神道や神社の意味について、気づいていった。

「私もこちら側の立場になってよくわかるのですが、神社は空気のようなものだと思います。節目節目で地域の方々と縁を結んで頂く……節目の宗教だと考えています。だから、正月や夏祭り、上棟祭など、人生の節目ごとに神様に感謝の気持ちを伝えるんです。神道にはハレとケというものがありますよね。人間は生活していると疲れもたまり、さまざまなものを背負います。そこで、節目にお祭りをして、いい服を着たり、普段とは違うようなことをして、穢れを祓って、次に自分が生きるための生命力を神様に与えて頂く……それが、神社の仕事なのかなと思っています」

 そんな考えに下村を至らせたのは、地域の氏子や参拝者との触れ合いだったのだろう。下村は神道の考え方として「言挙げせず」というものがあることを、私に教えてくれた。文化の継承は親から子、大人から子どもへと、地域や共同体のサイクルの中で教え伝えていく。多くの宗教が理論を構築し、説明して人を納得させようとするのとは異なり、ことさらに説明したりはせず、一人一人が地域や共同体の中で、感じ気づくことを望むというわけだ……と、私なりに理解した。

 Twitterで話題になった「もう来ないでください」という言葉は、決して怒りから発した直情的でセンセーショナルな言葉ではなかった。おそらくは、Twitterを見て、邪な心で御朱印帳を買い求めに来た者が、またTwitterを見ているかも知れないと思って発せられた言葉。その短い言葉で、その人が気づきの機会を得るかもしれない優しさなのだと思った。

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■騒動で参拝者が増えるよりも……「まずは地域の氏神様へ」

 自身が地域の神社に奉職することで得たもの。それを、より多くの人に感じてもらいたい。そんな下村の思いが伝わってきたのは、この騒動のもたらす影響について尋ねたときだった。ともすれば、この騒動で八坂神社を知った人たちが参拝に訪れるのではないか。そう尋ねると、下村はすでにそうした人たちの姿があるとつぶやいてから、さらに諭すように語ってくれた。

「もともと神社というのはローカルスポット。地域の中で存在するものなんです。インターネットで情報が発信しやすく、すぐに届いてしまう時代にはわかりにくいことかもしれません。でも氏神様……皆さんが住んでいる神社に詣でるのが基本です。だから、通販とかのお問い合わせも頂くのですが、申し訳ないのですが、御札も御守りも縁を結んで頂くものなので、お断りしています。まずは、皆様の住んでいる地域の氏神様にお詣り頂きたいなと思っています」

 下村の言葉は、決して表面上のものではなく徹底している。Twitterではテレビやラジオに出演したことを報告しているのだが、それも放送が終わってから報告しているのである。そこには、騒動を利益に繋げようとするような邪なものとは、一切の縁をつなごうとはしない確固たる意志が見える。

 だからといって、決して参拝に来る者を拒むわけではない。下村はごくごく自然で基本的なことを教えてくれていた。

「神社は氏子とそれ以外の崇敬者にお支え頂くものだと思っています。ですので、こういう機会に、崇敬者の方に見つけてお詣り頂くことも大変有り難いことだと思っています。神棚も、伊勢神宮と氏神様とその他の神社となっていますよね。ですから、氏神様も大事にして頂きながら、そのほかの神社もお祭りして頂きたいですね」

 取材を終えて神社を辞するとき、鳥居の前で振り返って一礼をした。尋ねて来た氏子らしき人と話をしている下村は、もう一度一礼してくれた。その姿に、神道の本質の片鱗を垣間見た気がした。

 神社はさまざまな縁を繋ぐ場である。この取材もまた何かの縁が繋いでくれたものであった。そしてその縁は、また取材して書かなければ、なんら人の心に迫るものは書けないという確信を、私に与えてくれていた。

 いくら神社に参拝したからといって、目に見えるような御利益で人生を安泰にさせてくれているわけではない。けれども、それだけで十分だと思った。
(取材・文=昼間たかし)

最終更新:2017/06/30 12:51
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