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ヒトラー&ナチス映画が最近増えているのはなぜ? 「欅坂46」も巻き込んだナチズムの危険な魅力

増田「公共の場でヒトラーを賛美したり、ナチスを肯定したりするとドイツでは民衆扇動罪に問われ、逮捕されます。日本は反ユダヤ主義に対して認識がかなり希薄ですが、ドイツでは単なるコスプレでもナチスを思わせる格好で外出することは許されていません。ドイツの学校では現代史の授業に時間が多く割かれますし、生徒が授業中に挙手するときは手を挙げるのではなく、人差し指を立てるようになっています。手を挙げるとナチス式の敬礼を連想させるという理由からです。『帰ってきたヒトラー』はドイツ人の本音をうまく代弁したコメディ映画としてヒットしましたが、ヒトラーに対するドイツでの公的な見識が変わったわけではありません。『帰ってきたヒトラー』はヒトラーを主人公にしたというよりも、ドイツを含めて欧州全体に極右勢力が台頭し、移民を排斥しようとする風潮をタイミングよく風刺した作品だったと思います」

 ドイツ国内でナチスに対する歴史的な評価が変わることはないものの、ナチス政権は一般のドイツ市民からは意外なほど高い支持を得ていたことが専門家の研究によって最近明らかになってきたと増田氏は語る。

増田「ナチスドイツは結局、戦争に負けるまではドイツ内部で崩壊することはありませんでした。戦争が始まってからも、ドイツの一般市民の多くはナチス政権を支持していたことが戦後間もなく行なわれた世論調査などで分かっています。占領国から奪った食料や物資でドイツ国内は潤い、戦時中も飢えに苦しむことがなかったんです。戦争体験と飢餓が結びついている日本との大きな違いでしょう。『ハイドリヒを撃て!』ではナチ秘密警察の実力者だったラインハルト・ハイドリヒがチェコレジスタンスたちの暗殺の標的になりますが、37歳でハイドリヒはチェコの統治を任されたように、ナチスは実力のある若い世代を中堅幹部に抜擢していたのも特徴です。若くして責任ある立場に就いたことで、ヒトラーの指示以上に彼らは過激な行動に走っていった傾向があります。ワイマール時代に厳しい貧困生活を強いられた若い世代がナチスを支えていたんです。少子化、高齢者と子どもの貧困問題、外国人を排斥しようとする最近の世界情勢は、ナチスが台頭してきた状況と通じるものがありますね」

 これまで多くの映画ではナチスは絶対悪として描かれてきたが、ミルグラム実験を題材にした『es[エス]』(02)や米国の高校で実際に起きた事件に着想を得た『THE WAVE ウェイブ』(08)といったドイツ映画では、ファシズムという状況に簡単に順応し、ナチズムというエリート意識に魅了されてしまう人間の危うい一面が描かれている。また、増田氏が執筆者のひとりとして参加した『教養のドイツ現代史』(ミネルヴァ書房)を読むと、これまでヒトラーやナチスが映画や漫画などの世界でどのように描かれてきたのか、またナチスは同性愛や売春を厳しく取り締まる反面、男女間の婚前・婚外の性的関係には寛容だったなどの興味深いテーマについて知ることができる。大衆を熱狂させたヒトラーとナチスの歴史を含め、ドイツ現代史から学ぶべきことは多そうだ。
(取材・文=長野辰次)

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