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ドキュメンタリー映画『禅と骨』公開記念インタビュー

都市伝説のメリーさんを追い、煩悩だらけの禅僧 最期の夢に伴走した中村高寛監督が20年を振り返る

■ドキュメンタリーとは、自分のはらわたをさらけ出す行為

──ミトワさん不在の中、『赤い靴』は短編アニメーション『ヘンリの赤い靴』として完成し、14年12月に劇場公開されることに。ドキュメンタリー製作とアニメーションづくりを並行しての作業は大変だったと思います。

中村 7分ほどの短編アニメとして完成させたんですが、製作に1年間要しました。ミトワさんが残した膨大な資料とシノプスをもとに僕が脚本を書き、アニメーション作家に頼んで仕上げてもらった作品です。ドキュメンタリー映画の一環としてやるのなら、1日だけどこかでイベント上映して、満席になった様子を撮ればよかったんですが、1日だけの上映では映画雑誌「キネマ旬報」では劇場公開扱いにならない。それで横浜ニューテアトルで『ヨコハマメリー』と同時上映という形で1週間公開したんです。これでヘンリ・ミトワという名前を「キネマ旬報」に映画人として残すことができた(笑)。『ヘンリの赤い靴』をちゃんと一般公開し、その事実をドキュメンタリー映画として記録したかったんです。

──ポスターの中のミトワさん、「映画つくってくれて、ありがとな」と笑っているようです。

中村 本当はパソコンをイジりながら、冗談を言い合って笑っていただけなんですけどね。まぁ、せっかくなので、そういうことにしておきましょう(笑)。

──1本のドキュメンタリーを完成させるために、膨大な時間と労力を費やしている。中村監督自身の生活もあるから、大変じゃないですか。

中村 映画が完成してしまうほうが、僕にとっては大変なんです。ドキュメンタリーを撮っている間は、その製作費を稼ぐために頑張って働く気になれるんです。テレビのドキュメンタリー番組や企業のPRビデオを撮ったり、大学で教えたりしているんですが、それは全てドキュメンタリー映画を撮るというモチベーションがあるからできているんです。映画が完成してしまったら、働く気力も失せてしまう(笑)。基本、僕は自分が撮る映画は自分で製作費を用意しようと考えています。『ヨコハマメリー』がヒットした直後は、「お金は出しますが、口は出しません。ぜひ、中村監督ならではの作品を」などと甘い言葉を掛けられましたが、「お金を出して、口は出さない」なんてことは絶対ありえません(きっぱり)。『ヨコハマメリー』は映画賞を11個ほどいただきましたが、賞をもらっても次の仕事には結びつきませんでした。でも、自分でお金を用意すれば、自分から「負けた、やめた」と諦めない限り、闘いを続けることができる。ドキュメンタリーを撮り続けるということは、自分の闘いを続けるということなんだと思います

──『禅と骨』に続く新作の構想は?

中村 今はまだ『禅と骨』を完成させることに全力を使い果たして、死んだ状態ですね(笑)。「これだ!」と思える取材対象とどうタイミングよく出逢えるかだと思うんです。ここ20年間は取材撮影か映画祭に参加するか以外では旅行をしていないので、普通の旅行がしてみたいですね。

──『禅と骨』の終盤、ミトワさんの妻サチコさんから「結婚は? ガールフレンドはいないの?」と尋ねられているのは中村監督ですか?

中村 「いません」と答えているのは僕です。サチコさんから、あのとき初めてプライベートなことを質問されて焦ったんです。「もうすぐ、できます」と答えようかと迷ったんですが、正直に答えました。自分のはらわたをさらけ出しているようで、すっごく恥ずかしいですよ(笑)。
(取材・文=長野辰次)

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『禅と骨』
監督・構成/中村高寛 プロデューサー/林海象 ナレーション/仲村トオル ドラマパート出演/ウエンツ瑛士、余貴美子、利重剛、伊藤梨沙子、チャド・マレーン、飯島洋一、山崎潤、松浦祐也、けーすけ、千大佑、小田島渚、TAMAYO、清水節子、ロバート・ハリス、緒川たまき、永瀬正敏、佐野史郎
配給/トランスフォーマー 9月2日(土)よりポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトルほか全国順次公開
(C)大丈夫・人人FILMS
http://www.transformer.co.jp/m/zenandbones

●中村高寛(なかむら・たかゆき)
1975年神奈川県生まれ。97年、松竹大船撮影所よりキャリアをスタート。助監督として、様々なドラマ作品に携わる。2006年にドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』で監督デビュー。ヨコハマ映画祭新人監督賞、藤本賞新人賞などを受賞。NHKハイビジョン特集『終わりなきファイト “伝説のボクサー”カシアス内藤』(10年)などテレビドキュメンタリーも多数手掛けている。

最終更新:2017/09/04 11:24
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