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 >   > アメリカの「落ちこぼれ男子問題」は日本でも火を噴くか?
【wezzy】

女子の大学進学率が男子より高い状況も問題。アメリカの「落ちこぼれ男子問題」は日本でも火を噴くか?

 約一年前にwezzyでの連載で、男子の方が女子よりも大学就学率が高い日本の状況は、先進諸国の中では極めて例外的であり、この問題を解消しないことには社会における男女平等を実現することは難しいというお話をしました。その状況を端的に表しているのが以前も紹介した下記の図です。

 しかしこの図を見て、いくつかの国で女子の大学就学率が顕著に男子よりも高くなっているのは問題ではないのか? という違和感をもった人もいるでしょう。

 確かに女子に比べて顕著に低い男子の就学率は良い状況ではありません。男女で機会が平等でないということもさることながら、落ちこぼれた時に、女性はこれまで労働参加していなかった状況が継続するのに対し(もちろん女性が労働参加できていない状況も大問題です)、男性の場合はこれまで労働参加できていたのができなくなってしまうため、その社会経済的な帰結の意味合いが大きく異なるからです。

 少なくとも英語圏の国々ではこの「落ちこぼれ男子問題」が10年ほどの間に、十分ではないにせよ注目を集め始めています。各国ともまだ男女の賃金格差の問題などが存在しているため、教育とジェンダーと言えば、STEM系(いわゆる理系)で女子学生が少ないことに焦点を当てることが多いのが現状であり(詳しくはこちらの記事をご覧ください)、まだそれほど研究が進んでいない分野ではありますが、今回は「落ちこぼれ男子問題」をご紹介しようと思います。

なぜ落ちこぼれ男子問題が発生するのか?

 落ちこぼれ男子問題が発生する理由の一つとして考えられているのが、男子と女子の発達の差です。

 一般的に男子よりも女子の方が成長が早いとされており、小学校に入学する段階では明らかに女子の方が男子よりも成熟しています。小学校入学段階での生物的な特徴による学力差は、これによる教員や親の児童に対する接し方などの差から自己効力感を通じて学力に影響を与えてしまい、完全には消滅しきらないことが明らかになってきており、同様のことが落ちこぼれ男子問題についても言えるのではないかと考えられます。噛み砕いて言うと、小学校入学時点で少し成長の早い子供は「周りと比べて自分は出来る」と思えたり、周囲の大人から「あなたは出来る子」という接し方をされることで自信を持ち、高い目標を設定してそれに向かって努力をする習慣がつきやすくなるのですが、この影響はその後も響いていく、というわけです。

 二つ目の理由として考えられているのが、言語能力の男女差です。

 国際学力調査において、数学や科学といった科目の男女間の学力差は国によってバラバラとなっていますが、読解力ではほぼ全ての国で女子の成績が男子のそれを統計的に有意に上回っています。

 近年、国際教育協力の分野では早期の読書支援が費用対効果の高い学力支援策であることが明らかになってきています (私がネパールで運営しているNGOもこのエビデンスに基づいて活動方針を選択しました)。言語能力は全ての学びの土台ともいえるため、幼い時期にこの問題が生じると、その後の教育についていくことが難しくなります。この問題は家庭環境の良くない男子の間で顕著にみられるため、落ちこぼれ男子問題の一因となっていることが考えられます。

 三つ目の理由として考えられているのが、マスキュリニティ(男性性)と労働です。

 アメリカはジェンダー問題の先進国のように思われるかもしれませんが、実はジェンダーステレオタイプがいまだに強く残っている国です。

 高学力の男性がジェンダーステレオタイプを発露するとトロフィーワイフ(自分のトロフィーとして若く美しい女性と結婚すること)などの形で現れますが、低学力の男性の間で発露すると「早く稼げるようになることこそが男として一人前の証であり、教育を受けるのなんてバカバカしい」という考えにつながります(この現象は中南米でも顕著にみられ、これらの地域での国際教育協力におけるジェンダーと教育分野の支援は、中等教育における男子の退学予防がメインテーマとなっています。アメリカもこの文化圏の一員なのかもしれません)。

 仮に1つ目、2つ目の要因をクリアできたとしても、思春期になって「マスキュリニティと労働」の問題が出現してしまうと、中等教育でまともに勉強しなくなったり、高等教育へ進学しなかったり、といった形で落ちこぼれ男子問題が発生すると考えられます。

改ページ

どのように落ちこぼれ男子問題が火を噴いたのか?

 なぜいま落ちこぼれ男子問題が注目されるようになったのでしょうか?

 例外も多く存在しますが、一般的に経済発展と共に国の産業構造も農業から軽工業、重工業、そしてサービス業等へと変化していきます。産業発展と共に求められる教育水準も変化し、小学校(読み書き・計算が出来れば、肥料や農薬の計算ができようになります)、中学校(工場に雇われる立場になるので、もう少し知識が必要になります)、高校(工業科・電気科など)、さらに大学や大学院へと上がっていきます。

 また、身体的な強さがものをいう部分もある重工業までは男性が主な働き手となりますが、サービス業や科学テクノロジーを活用した産業が主流になると、腕力の重要性が落ち女性の労働参加も進みやすくなるので、男性にとって職を得るための競争が激しくなります。

 しかし、アメリカの、その中でもラストベルトと呼ばれる地域では特に、石炭・鉄鋼・自動車産業からの脱却が求められようになったにもかかわらず、男性の教育水準がそれに見合うペースで上昇せず、男性の失業・低賃金問題が深刻になっていきました。これが落ちこぼれ男子問題がアメリカで火を噴いた背景です。

 現在私が住んでいるミシガン州の最大の街・デトロイトは自動車産業で有名です。ラストベルトのど真ん中に位置するこの街は夕張市のように財政破綻を起こし、現在では全米で最も治安の悪い街と言われています。

 実はトランプ大統領が当選した鍵は、このラストベルトにあるとも言われています(朝日新聞の「トランプの時代」などの連載記事がこれを鮮明に描いています)。石炭産業の復活、自由貿易撤廃で工場を米国内に取り戻す、移民排斥といったトランプ大統領が掲げた政策は、職を失ったないしは低賃金にあえぐこの地域の高卒男性の共感を呼びやすいものだったのでしょう。

 しかし、機械化や技術革新が今後も進展していけば、高卒男性程度の知識やスキルで十分な賃金を得られる職はどんどん無くなっていくと考えられます。トランプが掲げる政策がこうした流れを止められるとは考えられず、画餅でしかありません。低賃金にあえぐ高卒男性の問題を解決するには、落ちこぼれ男子問題に取り組んだり、リカレント教育(生涯教育のひとつ。労働と教育を繰り返し行えるような仕組み)を充実させたりすることによって、この地域の男性の教育水準を上げる必要があるのです。

日本で男子の落ちこぼれ問題は火を噴くのか?ーバランスの取れた教育政策の重要性

 それでは日本でもアメリカのように落ちこぼれ男子問題が火を噴くと考えられるのでしょうか?

 結論を先に述べると、日本で男子の落ちこぼれ問題が火を噴くのは、まだしばらくはなさそうです。国際学力調査のPISAの結果を見ると、日本は先進諸国の中でも男子の落ちこぼれ比率(PISAでLevel2以下の学力を持つ生徒の割合)が最も低い国の一つですし、読解力における男女間の落ちこぼれ比率の差も最も小さくなっています。さらに、日本の大学就学率は先進諸国の中で例外的に男子の方が高いだけでなく、男性の雇用に占める第三次産業の割合もイギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダなどの英語圏の国と比べて10%程度低くなっています。しかし、高卒男性と大卒男性の未婚率の差がこの20年で拡大するなど、社会問題として顕在化する恐れがあり、油断することは出来ず、今のうちから対策を考えておけるとよいでしょう。

 教育問題を解消しただけで経済問題が解決するわけではありませんが、英語圏の男子の落ちこぼれ問題は教育問題を解消しないことには社会経済問題が解決しない局面が存在することを示唆しています。これは、日本で産業構造が転換するところで女子の教育水準が伸び悩み、ジェンダー平等の点で依然として課題を抱えていることも同様のことを示唆しています。

 バランスの取れていない教育政策は、新たな経済問題や社会問題を引き起こしたり、あるいはより深刻化してしまうことがあります。これは落ちこぼれ男子問題だけでなく、学歴差から生じる男女間の賃金格差やマイノリティ全般を取り巻く教育問題など様々な点でいえることです。ジェンダーに代表されるような様々な人の属性に配慮したバランスの取れた教育政策を追求していくことが社会の繁栄にとって重要だということを、アメリカが直面する現状から日本は学ぶことができると思います。


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