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アクション映画としての矜持!常軌を逸した演者たち!そして「ヤンキー卒業問題」…『HiGH&LOW』新作の”ヤバさ”を語り尽くす!

加藤 若手の俳優たちにとって、一種の修練の場になったら面白いですね。九龍の皆さんみたいに、はっちゃけた演技をどんどん提案してキャラを立たせていくみたいな。

 継続しての出演陣でいうと、雨宮雅貴役のTAKAHIROがすごくよかったです。琥珀さんにUSBを託すときの「兄貴が死んでさ」の言い方が、クールでありつつ声が震えている感じを出していた。『THE RED RAIN』を踏まえて、TAKAHIROさんの中でキャラが固まったんだな、と。

アクション映画としての矜持!常軌を逸した演者たち!そして「ヤンキー卒業問題」…『HiGH&LOW』新作のヤバさを語り尽くす!の画像4

藤谷 ザムのラストの琥珀さんが改心して泣いているシーンと、『THE RED RAIN』で雅貴が兄である尊龍(斎藤工)を失って雨の中で泣いてるシーンが左右対称で交互に挿入されるところも、画として美しくてすごく考えられていましたね。なおかつ、雅貴役のTAKAHIROさんと琥珀さん役のAKIRAさんは、06年の“同期入社”ですし

編集部 2人は、「EXILE第2章」で加入したボーカルとパフォーマーです。ファンの間では「2章コンビ」と呼ばれていますし、本人らも「俺たちは二人三脚」と公言しています。だから、ザム2での琥珀さんと雅貴の共闘は「EXILE〜〜〜〜!!!」ってなりました。

【ポイント④】山王連合会分裂で芽生えた「ヤンキー卒業問題」

加藤 カーアクションシーンがあまりにすごいので、「琥珀さん&九十九さんと雨宮兄弟の映画だ」と思う部分はありますよね。

藤谷 琥珀さんの映画であり、それについていく九十九さんが「琥珀さん、俺車ダメだわ」で前半は全部持っていくじゃないですか。

加藤 ただ、最後の前蹴り一発で、あそこからコブラの映画になった感じがしたんですよ。変な話ですが、あのエンドロールはエンディングかつ、コブラの物語のオープニングでもあると思うんです。

 そもそも、ここまでアクションとキャラクターの話ばかりしてきましたけど、ストーリーのこともちゃんと言っておきたいです。最初に「続編が公開される」と聞いたときは、正直「引き伸ばしにかかるのかな?」と思ってたんです。いま、洋画でも邦画でもユニバース化して引き伸ばしている作品がすごくたくさんある。でもハイローは違った。物語が急展開を迎えて、決着の仕方はわからないにせよ、終わりに向かって突き進んでいる感じもすごく気持ちよかったです。「スターウォーズ」の『帝国の逆襲』みたいな感じで、単純に物語としての続きが気になる。ドラマシリーズはキャラ紹介の色合いが濃かったけれど、ザム2からはストーリーで引っ張っていくんだな、と感じました。

藤谷 正統進化を遂げてましたね。昨年の対談で「アクションの尺がもっと欲しかった」という話をしましたけど、今回はストーリーを引っ張る形でアクションがありながら、ドラマ自体の強度も上がって、厚みが出てきました。

 ザム2の予告編でコブラが「一緒にいるだけが仲間じゃねぇ」って言っているのを観た時は、ヤマトとコブラの「シビル・ウォー」(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』【7】)になるのかと思ったんです。それがコブラ・ヤマト・ノボル(町田啓太)対ダン(山下健二郎)・テッツ(佐藤寛太)・チハル(佐藤大樹)という分裂になるのは意表を突かれました。ドラマのシーズン1ではコブラ&ヤマト対ノボルという対立がありましたが、あれは一言でいうと「進路の問題」で、道を誤ってしまったノボルを、コブラとヤマトが説得しようとしていた。今回の対立は、どちらかが間違っているわけではない。

 ここで浮上してくるのが、「不良(アウトロー)の進路問題」なんですよ。1990年代以降のヤンキーものって、『莫逆家族』(田中宏/講談社)【8】にしても『サムライソルジャー』(山本隆一郎/集英社)【9】にしても、不良少年がどうやって自分の進路を決め、生活を選ぶかがひとつのテーマになっています。バブル期に連載されていた『BADBOYS』(田中宏/少年画報社)【10】だとそのまま青春の終わり=物語もそこで終わっていたのが、その続編的位置づけの『グレアー』や、さらに続編の『KIPPO』では嫌というほど仕事や家庭といった「その後」にどう向かい合うのかが描かれているんです。「その後」問題はこの20年くらいの不良コンテンツのトレンドといってもいい。でもこれらの作家たちや、『クローズ』『WORST』の高橋ヒロシにしたって、誰もこの問題に答えを出せていないんです。先述の『サムライソルジャー』は渋谷のギャングの抗争の裏にヤクザのカジノ計画があるという話で、ハイローを思い起こさせる設定が結構あります。この作品も、最終的には「不良少年は居場所がないし粗暴だけど、今時の無気力な若者よりは熱いやつらの方がいい」みたいなポエムな軟着陸になってしまい、どうしてもすっきりしていない。この山王連合会シビル・ウォーも、まだ落としどころが見えてこないので、その点は心配ではあります。

加藤 「ヤンキーの進路問題」にうまく応えたヤンキーマンガは、まだないですよね。一応『クローズ』は最後に「卒業後はこういう進路にいきました」みたいな説明は入るけど、その後の生活で高校時代と同じ輝きを持てているか、というのは絶対描かれない。

藤谷 そこはまだ誰も結論が出せていないんですよ。ハイローにもつながるところとして、当たり前ですけど、喧嘩シーン、アクションのほうがコンテンツとして引きが強い。不良がリアルに将来に迷ったり葛藤しているのって、メイン読者からすればそこまで興味のあることではないでしょうし。

 そもそもコブラたちって、MUGENのときは「からまれてるヤツを助けただけなのに警察に目つけられた」ってプンスカしてましたけど、山王連合会は不良だからって迫害されている描写もない。だからチハルの言葉じゃないですけど、「山王連合会って、何と戦ってるんですかね?」となるのも仕方ないのでは。

加藤 そこでザム2では、九龍という敵がより明確に出てきたのかもしれないですね。

藤谷 確かに、物語がこれまでふわっとしていたのが、九龍と直接対決の場面が出たことでちょっと固まってきました。そこがまさに正統進化なんですけど、それによって山王のアイデンティティはかえって揺らいできている。これまでは作中でもなんとなく見過ごしていた、進路というか「生き方」問題が浮き彫りになって、観てるほうも「あれ?」と。

 またマンガの話になってしまうんですが、山本隆一郎の新作『元ヤン』【11】は、「地元を愛する元ヤンが、同じく地元を愛する全国のヤンキーたちと戦って全国制覇しようとする話」なんです。「全員主役」ならぬ「全員山王」みたいな。ハイローもウッカリすると自分たちの問題を先送りにして、ほかの地区の山王みたいな連中と戦う話になる可能性も……。

加藤 その問題に対しては、作り手側も自覚は絶対にあるでしょうね。だからザム2のクライマックスで、DTC(ダン・テッツ・チハルの略)は仲違いしたまま喧嘩に本当に参加しなかった。別の作品を引き合いに出して恐縮ですが、僕は映画『ワイルド・スピード』が好きで、最新作の『アイスブレイク』【12】もすごく面白かったんですけど、どうしても引っかかるところがあるんです。『アイスブレイク』では、ヴィン・ディーゼル演じるドムという“ファミリー”のリーダーが、いろいろあって悪事に手を染める。その過程で、前作『スカイミッション』の敵で、ファミリーの一員を殺害したデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)が仲間に加わるんです。『ワイスピ』って絶対最後にファミリーでバーベキューをするんですけど、そこに普通にジェイソン・ステイサムがいる。

藤谷 ハイローでいうと、二階堂(橘ケンチ)がしれっと山王のお祭りにいるようなものですね。「お前、龍也もノボルも轢いたじゃねーか!」っていう。

加藤 そうそう。だから観ていて、「え、いるの!?」ってなっちゃうんですよ。殺されたキャラが好きだった人からすれば、納得がいかない。そこに誰かが作中で疑問を呈してほしいんですけど、ドムが「俺はこいつを許す」みたいな空気を出したら、みんな「ドム……!」ってなってしまう。忖度ですよ。そこに違和感があって、今までのシリーズほど乗り切れなかったんです。対してザム2では、DTCが普通に出て行ってしまう。

藤谷 「実はあとから参戦します」じゃなくて本当に来ないのは、セオリーを破ってますよね。

加藤 本当はあそこで助けに来るのがいちばん簡単ではあるんですけど、それを撮らなかった。そこで作り手側が、山王の進路問題というか、カジノができることによって街がどうなっていくのかというテーマに真摯に向き合おうとしているのが伝わりました。

藤谷 もうひとつ進路問題でいうと、村山たち鬼邪高3人組も謎ですよね。ザムのラストでは「俺たちはもう卒業だ」「山王入れてくんねぇ?」って言ってたのに、今回も学ラン着てるし。

加藤 ただ、村山たちは卒業して「旅に出る」とか言い出してもいいと思うんですよ。『今日から俺は!!』(西森博之/小学館)【13】みたいに、3人でバイクか何かに乗って「じゃあな〜」って遠ざかっていくとか。達磨も「それからも幸せに賭場を続けていきました」で済む。ラスカルズはすでに店を経営している。山王だけが“将来”という、決着を付けないといけない問題に直面している。

藤谷 無名街は……?

加藤 無名街は、明日を生きるほうが大切だから……。

藤谷 俺たちは、生きることを決してあきらめない……。

加藤・藤谷の熱いハイロー談義はまだまだ終わらない!
後編は明日公開予定です。

(構成/斎藤岬)

<プロフィール>
加藤よしき
ライター。1986年生まれ。「Real sound」などで執筆。『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』(洋泉社)に寄稿。
ブログ:http://blog.livedoor.jp/heretostay/
twitterID:@daitotetsugen

藤谷千明
ヴィジュアル系とヤンキーマンガとギャル雑誌が好きなフリーライター。1981年生まれ。執筆媒体「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ」ほか。
twitterID:@fjtn_c

<註釈>

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【1】『ダークナイト』
2008年公開/監督:クリストファー・ノーラン/主演:クリスチャン・ベール/アメリカン・コミック『バットマン』を原作とした実写映画作品。敵役・ジョーカーを演じたヒース・レジャーの存在感は語り草に。ちなみにコブラ役の岩田剛典も好きな映画に本作をあげている。


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【2】『マトリックス』
1999年公開/監督:ラナ・ウォシャウスキー、リリー・ウォシャウスキー/主演:キアヌ・リーブス/SFアクション映画の金字塔にして、CG映画のレベルを引き上げたといわれる傑作。


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【3】『クローズZERO』
2007年公開/監督:三池崇史/主演:小栗旬/若手イケメン俳優×ヤンキーマンガ実写化作品における00年代最大のヒット作。ハイローも存分にこの作品の影響を受けているはずだ。興行収入も25億円を記録した。


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【4】『クローズEXPLODE』
2014年公開/監督:豊田利晃/主演:東出昌大/興行収入は11.4億円にとどまり、大ヒットした小栗旬主演の『クローズZERO』『ZERO II』ほどのヒットはしなかったが、一部のマニアには受けた作品。ちなみに、コブラ役・岩田剛典の映画初出演昨品でもある。


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【5】『TOKYO TRIBE』
2014年公開/監督:園子温/主演:YOUNG DAIS/井上三太による同名マンガの実写映画。近未来のトーキョーにひしめくトライブ(族)たちの暴力と愛と友情を描く。アクション監督は『THE RED RAIN』のアクションも手がけた匠馬敏郎。ハイローでは「9」役でおなじみのラッパーANARCHYも出演している。


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【6】『仮面ライダー鎧武』
2013年10月~2014年9月放映/テレビ朝日系/監督:田﨑竜太、柴﨑貴行、諸田敏、中澤祥次郎、石田秀範、金田治(ジャパンアクションエンタープライズ)、山口恭平/主演:佐野岳/平成仮面ライダーシリーズ第15作目の作品で、戦国武将とフルーツを組み合わせたイメージのライダーが活躍した。とにかく果汁がほとばしる。


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【7】『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
2016年公開/監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ/主演:クリス・エヴァンス/「マーベル・コミック」の実写映画を同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う『マーベル・シネマティック・ユニバース』シリーズの13作品目。共にアベンジャーズとして活動していたキャプテン・アメリカとアイアンマンが、志を同じにしながらも激しく対立する。正義とは何か?ヒーロー映画につきまとう問題に挑んだ傑作。


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【8】『莫逆家族』(田中ヒロシ/講談社)
1999年~2004年「週刊ヤングマガジン」にて連載/かつて暴走族だった主人公・火野鉄は青春を封印し手に職をつけて働いていたが、族仲間と再会し再びアウトローの道へひた走っていく。2012年に徳井義実(チュートリアル)主演で実写映画化。同作には、日向役の林遣都や家村会会長役の中村達也、龍也役の井浦新などハイローでもおなじみの面々が出演している。


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【9】『サムライソルジャー』(山本隆一郎/集英社)
2008年~2014年「週刊ヤングジャンプ」にて連載/数々の不良集団が乱立する渋谷は、最強の不良集団「ZERO」によって均衡状態が保たれていたが、「ZERO」の頭・桐生達也が渋谷統一を宣言したことにより、抗争が勃発する。


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【10】『BADBOYS』(田中宏/少年画報社)
1988年〜1996年まで「ヤングキング」にて連載/広島県を舞台に、富豪の家に生れながら不良になることを決意した主人公・桐木司の青春グラフィティ。2011年には三浦貴大主演で実写映画に。2013年には中島健人(Sexy Zone)をメインに据え『BAD BOYS J』のタイトルでテレビドラマ化され、多くのジャニーズ事務所のタレントたちが出演した。このドラマの脚本を書いた渡辺啓はLDH所属で、ハイローの脚本家チームにも参加している。


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【11】『元ヤン』(山本隆一郎/集英社)
2015年から「週刊ヤングジャンプ」にて連載中/そのタイトル通り「元ヤン」の主人公・矢沢正次が再び不良として立ち上がり、「不良界の天下統一」を目指すストーリー。


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【12】『ワイルド・スピード アイスブレイク』…2017年公開/監督:F・ゲイリー・グレイ/主演:ヴィン・ディーゼル/2000年から続く人気カーアクション映画『ワイルド・スピードシリーズ』の最新作。ハイローの久保茂昭監督はザム2のカーアクションを考えるにあたり『ワイルド・スピード』を参考にしたと、映画パンフレットで明言している。


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【13】『今日から俺は!!』(西森博之/小学館)
1988年から1990年まで「増刊少年サンデー」にて、1990年から1997年まで「週刊少年サンデー」にて連載/千葉を舞台に主人公・三橋貴志と伊藤真司が他の不良と戦ったり、珍事に巻き込まれたりするバトル兼ギャグマンガ。93年には実写Vシネ化も。


最終更新:2017/09/16 20:00
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