不倫した有名人への過剰なバッシングは、「不倫は社会に対する裏切り行為」という怒りが生み出している?
8月から現在まで続く女優・斉藤由貴と男性医師との不倫報道。当初、不倫関係にあったことを否定していたふたりだったが、今月11日になり男性医師が『スッキリ!!』(日本テレビ系)での独占インタビューにて不倫関係にあったことを話し、斉藤も所属事務所を通して不倫関係を認めたことで事態は進展した。
2016年にベッキー・川谷絵音の不倫関係が報じられて以降、メディアでは「不倫ブーム」が起きている。最近では、民進党の山尾志桜里議員の不倫疑惑報道が記憶に新しい。山尾は、今月7日に不倫関係を認めていないものの「党に多大な迷惑をかけた」として離党届を提出。民進党は翌8日に離党届を受理した。
8月30日にyahoo!個人に掲載されたメディアコンサルタントの境治の記事によれば、ベッキー・川谷騒動以降、テレビで「不倫」という言葉が含まれる番組およびコーナーの放送時間は、2014年の27時間42分、2015年の21時間29分から激増し、なんと2016年には170時間05分、2017年は120時間54分(8月27日まで)に達しているそうだ(私たちは「人の不倫をなじること」に侵されている~テレビは何時間不倫を報じたか~)。それだけメディアは「不倫」に需要があると考えているのだろう。
一部メディアによると、現在、斉藤がCM出演する企業や所属事務所に対して、抗議の電話やメールが寄せられているそうだ。山尾の不倫疑惑報道の際にも論じた通り(「山尾志桜里議員は不倫疑惑報道を受けて離党・議員辞職すべきなのか」)、不倫は個人的な問題であり、関係者間で協議したり民事裁判などを行ったりすればいい話である。離党や議員辞職を問うべきものでもなければ、第三者がなんらかのペナルティーを課すように働きかけるようなものでもないはずだ。
一方で不倫したタレントをCM等で起用していた企業が、CMを打ち切りにするか、継続するかを判断するのは自由だろう。商品や自社アピールのためにタレントを起用するのは、そのタレントが持つイメージや人気、信用を買っているところがある。スキャンダルなどを起こしたタレントを起用し続けることが商品イメージを悪くすると考えれば打ち切りは妥当、スキャンダルが商品に何の関係もない、スキャンダルを起こしたとしてもこのタレントを応援したいとの判断で継続すればいい。それだけの話だ。
それにもかかわらず、不倫した人間にはなんらかの制裁が加えられるべき、加えられてもいいはずだという、不倫があたかも犯罪行為であるとみなすような空気が日本社会に充満しているように感じられる。
「不倫ブーム」は不安を解消するために作られた
おそらく不倫は個人間を超えた、「社会」に対する裏切り行為だと思われている。自分たちは結婚(恋人でもいい)という「契約」を守っているし、守ろうとしている。そうすることがよいことだ。なぜならそれが「社会」にとって当たり前だから。それに従って、自分は不倫しないようにしているし、パートナーも自分と同じようであって欲しいと信じている。だから誰かが不倫をすると、「こっちは努力しているのに。ズルしやがって」といった気持ちや「パートナーも実は自分を裏切っているのかもしれない」と不安を覚える。不倫したタレントは自分たちを騙していた。自分をこんな気持ちにさせるなんて。これは「社会」への裏切り行為だ。当然、罰せられるべきだ。そんな気持ちが働いているのではないだろうか。
そして、その不安や怒りは、不倫したタレントらを叩くことで解消される。叩けば叩くほど、「自分は不倫するような人間ではない。あいつとは違う」と自分に言い聞かせることができ、また周囲にアピールすることもできる。怒りを表明し、さらに社会的制裁を加えさせることによって「こうなるのだから、不倫するな」と警鐘も鳴らせる。裏切り者が始末されることで、また安心して生活を送ることにできる。
「不倫ブーム」がここまで加熱しているのは、自分たちは間違っていない、と繰り返し確かめようとする気持ちが要因のひとつなのかもしれない。だがそうやって、モラルに反した人間を徹底的に叩き落とそうと目くじらを立てる社会は、誰にとっても生きづらい。次に叩き落とされるのが、自分かもしれないという不安を覚え、さらに叩き合いが過熱するかもしれない。
斉藤由貴は不倫を認める際に「まず最初に、今回のことは、全て私の責任です。今後お仕事で派生するペナルティーは、覚悟してお受けいたします。斉藤にやらせよう、とせっかく依頼してくださったのに、本当に申し訳ありませんでした」とコメントしている。所属事務所や企業も斉藤の処遇をどうするか検討している段階だろう。犯罪行為とされていない、関係者間の問題であるはずの不倫がこれほどまでに大々的に報じられた時点で、充分な制裁を受けているはずだ。あとは関係者間で話し合えばいい。
(門田ゲッツ)
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