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5人の「元・大統領ズ」がハリケーン被災で団結~アメリカの元大統領はふだん何をしているか

 今年、アメリカは2つの大きなハリケーンに立て続けに襲われた。

 8月25日、カテゴリー4(5段階中2番目の規模)の大型ハリケーン・ハービーがテキサス州に上陸。同州の大都市ヒューストン周辺などに最大1,300ミリを超える記録的な雨を降らせ、大洪水を起こした。

 被災後のヒューストンが大混乱の最中にあった8月30日にはカリブ海で次のハリケーン・イルマが発生していた。イルマは巨大で風速も非常に強く、一時はハリケーンの最大カテゴリー5となってカリブ海のいくつかの島を破壊し尽くしたのち、9月9日にフロリダ州に上陸。洪水に加え、強風による大停電も起こり、同州の全世帯の6割が電力を失った。

 どちらも事前の避難警告が徹底されたが、それでもハービーでは約70人、イルマはこの記事を書いている時点で30人近い死者が確認されている。両州共に大洪水と烈風による損壊家屋が大量に出た。フロリダのキー諸島はもはや人が住めない状態とも言われている。

 避難所に指定された大型スポーツ・アリーナ、学校、公民館、教会、モスクなどに駆け込んだ人々は命をながらえたが、自宅を失って今も避難所にとどまっている人も少なくない。公共施設や商業施設も大きなダメージを受け、テキサスでは石油施設にも影響が出ている。フロリダは今も気温が30度を超えており、ある高齢者施設ではハリケーンによるエアコンの故障から、ハリケーンをサバイバルした入居者8人が次々と亡くなる痛ましい事故も起こっている。

 最終的な被害総額はまだ計上されていないが、ハービーだけでも2005年にルイジアナ州ニューオーリンズを壊滅状態に陥れたハリケーン・カトリーナに次ぐ、米国ハリケーン史上2番目の被害額と見積もられている。

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政党も年代も超えて集まる元大統領

 米国政府はハリケーン・ハービー被害に対して15億ドルの拠出を決めたが、それを待たずしてアクションを起こしたのが、5人の元大統領たちだ。アメリカ合衆国第39代大統領のジミー・カーターから第44代のバラク・オバマまで、生存する全ての元大統領が党派を超えて集まり、被災地救済の寄付を募るプロジェクト「ワン・アメリカ・アピール」を開始した。

 「ワン・アメリカ」とは支持政党は関係なく、「ひとつのアメリカ」になろうの意。「アピール」は「援助などを懇願する、訴える」といった意味を持つ。

 多くのアメリカ人が、自分がかつて支持した大統領については生涯にわたって“ファン”のままだ。したがって2党の元大統領、そして過去40年間の元大統領が揃うことによって、支持政党も年代も問わずに多くの市民に“アピール”できる。実のところ、政治的な見解が合わず、必ずしも良好な関係ではない者同士もいるのだが、それはさておき自国のために集結したのはさすがである。

ワン・アメリカ・アピール

第39代 ジミー・カーター(民主党)1977-1981
第41代 ジョージ・H. W. ブッシュ(共和党)1989-1993
第42代 ビル・クリントン(民主党)1993-2001
第43代 ジョージ・W. ブッシュ(共和党)2001-2009
第44代 バラク・オバマ(民主党)2009-2017
※第40代 ロナルド・レーガン(共和党)1981-1989は故人

 同様のアクションは過去にもあった。2004年にインドネシアでスマトラ島沖地震が起きた際、かつて大統領選で競い合ったジョージ・H. W. ブッシュ(パパ・ブッシュ)とビル・クリントンがタッグを組んだ。翌年にハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲った際にもこの2人は共に支援活動をおこなっている。2人は2件の活動により全米憲法センターより自由勲章を授与されている。

 2010年のハイチ大地震の際には地震から3日後に当時のオバマ政権が、全米に10万〜20万人いるとされていた「ハイチからの不法移民の強制送還中止」を発表。オバマ大統領の依頼により、やはりビル・クリントンとジョージ・W. ブッシュ(息子)がプロジェクトを率い、5,400万ドルを集めている。2人は後日にハイチを訪れ、被災地を歩いて被災者を励ますこともおこなっている。現役&元大統領の見事な連携プレーと言えるだろう。

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カーター:92歳、ホームレスの住宅を建てる

 アメリカの大統領は、任期後は平和活動や人権活動に取り組むことが多い。英語では “Humanitarian” (人道主義)と呼ばれる活動だ。

 ジミー・カーターは、在任中はさまざまな政治的困難にぶつかって再選を果たせず、1期4年のみの大統領だった。カーターが1977年の着任初日におこなったのが、ベトナム戦争を回避して犯罪者扱いとなっていた大量の元兵士全員に恩赦を与えることだった。続いてエネルギー庁を新たに創設している。当時から人権と環境の問題に着目していたのだ。

 南部ジョージア州の「ピーナツ農民」と言われ、おっとりした南部訛りで話すカーター元大統領だが、任期後も平和と人権のために精力的に世界中を飛び回り、ノーベル平和賞を始め、多数の賞を授与されている。来月で93歳となるが、今年の夏も長年取り組んでいるホームレスのための住宅建築作業に自ら参加し、話題となったばかりだ。

パパ・ブッシュ:毎日、ボランティアを表彰

 パパ・ブッシュことジョージ・H. W. ブッシュはボランティア活動が国を向上させる重要な鍵と考え、在任中の1990年に「デイリー・ポイント・オブ・ライト賞」を創設した。これは自身の演説の中でボランティアとして地域社会に貢献する全米の市民たちを「何千もの光の点」と言い表したことに由来する名称で、現在に至るまで毎日1名のボランティに授与されている。だが在任後は息子ブッシュの政治活動に際し、利害の対立を避けるべく活動は控えめとなっていた。

 パパ・ブッシュはジミー・カーターと同じく1924年生まれの93歳だ。すでに何度も入退院を繰り返し、外出時には車イスを使うようになっている。今回の「ワン・アメリカ・アピール」のPRビデオでも「ウィ・ラヴ・ユー、テキサス」と非常に短いフレーズしか語っていないのは、もう話すこともままならないからだと思われる。それでも今年2月にスーパーボウル会場に登場して試合前のコイントスをおこない、満場の喝采を浴びた。引退から24年を経てなお、国民から愛されていることを証明した。

クリントン:演説1回20万ドル!

 任期後、ビル・クリントンは全米はおろか世界中で講演会を行い、莫大な収入を得ている。演説1回のギャラは平均20万ドルと報じたメディアもある。しかし当初の数年間の収入は大統領任期中のインターンとの浮気事件によって派生した莫大な弁護料金の支払いに充てられた。

 それほどの大スキャンダルを起こしたクリントンだが、人気は衰えない。社交的な性格、世界中の重要人物との交流、世界事情への深い理解と洞察により今もアメリカ社会への大きな影響力を維持している。妻ヒラリー・クリントンの大統領当選の暁には史上初の「ファースト・ジェントルマン」としてホワイトハウスに返り咲き、さらなる影響力の発揮が期待されたが、これは果たせずに終わった。

 在任中に設立したクリントン財団を通じ、15年間にわたって世界各地へのチャリティを続けてきたが、ヒラリーが国務長官時代に外国政府から受け取った寄付金と利害関係にまつわる疑惑が持ち上がった。FBIの捜査対象にもなり、ヒラリーが大統領選に立候補すると財団は活動を縮小。それでもビル・クリントンの人気は決して衰えないのである。

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ブッシュ:洪水の水よりも多くの愛

 ブッシュ(息子)は大統領在任中に9.11同時多発テロが起こり、結果的に米国の戦争史上最長期間となったイラク戦争を開始。任期後半にはリーマン・ショックも起こり、以後のアメリカに大きな影を落としたままの引退となった。

 大統領を2期8年努めながらも在任中から「大統領の適正がない」「副大統領の操り人形」などと揶揄されたブッシュは、引退後は大いに解放感を味わったように見える。先に書いたようにハイチ地震では活躍したが社会的な活動は少ない。だが、引退後に始めた趣味の絵画はプロ並みの腕前となり、今年2月に発売された画集『Portraits of Courage』は注目を集めた。同著の収益は引退時にダラスに設立した図書館ジョージ・W・ブッシュ・プレジデンシャル・センターに寄付されている。

 パパ・ブッシュは米国北東部の出身だが、石油事業のためにテキサスに移り、富豪となった。息子ブッシュはそのテキサスで育っている。大統領になる前はテキサス州知事を務めており、大統領任期後はテキサスに戻って現在も同州ダラスに暮らしている。

 生粋のテキサスっ子であるブッシュはヒューストンの惨状に心を痛めている。今回の「ワン・アメリカ・アピール」のPRビデオでも以下のように語っている。

「ここテキサスでは人々が傷ついている。だがテキサス人が言うように、洪水の水よりも多くの愛がテキサスにはある」

オバマ:未来を築く若者の育成

 今年1月に大統領を退いたバラク・オバマは、引退前にマイノリティの青少年男子に教育支援をおこなう「マイ・ブラザーズ・キーパー」というNPOを立ち上げている。人種的マジョリティに比べて教育のハンデを抱えるマイノリティの中でも、さらに女子よりも多くの障壁を抱える男子の支援に「一生かかわっていく」と宣言している。

 オバマも歴代大統領と同じく、自身の名を冠する記念図書館を設立する。地元イリノイ州シカゴに2021年完成予定のバラク・オバマ・プレジデンシャル・センターは図書館の枠をはるかに越え、多彩な文化的、教育的施設となる予定だ。

 そのセンター建設に先駆け、バラクとミシェルのオバマ夫妻は「オバマ財団」を設立した。財団の使命が「世界を変えるために人々をインスパイアし、力付ける」と記されているとおり、若者の市民活動フェローシップ(研究員奨励制度)、市民活動トレーニングなどをおこなう。

 来月には第1回「オバマ財団サミット」を開催する。財団の本拠地であるシカゴ、全米、そして世界中からの若い市民活動家が一同に会するイベントとなるようだ。大の子供好き、かつ若者との交流好きで知られるオバマだが、今後はアメリカと世界のあり方を向上させるための若い人材育成に心血を注いでいくものと思われる。

元アメリカ大統領の使命と影響力

 アメリカにおける政治家としての最高ポジションは大統領であり、大統領を退いた後に就ける地位はない。だが4年間もしくは8年間にわたって大国アメリカと世界を見つめ続けて得た深い知識、広い視野、高度な政治スキルに加え、アメリカと世界への情熱を持つ元大統領たちは、自ら活動の場を設けてしまう。

 元大統領たちはその知名度と人脈を活かし、財団に大きな資金を呼び込むことができる。その資金を基に人道活動、平和活動をおこなう。資金が潤沢であるほど活動内容は充実し、恩恵を受ける対象も増える。また、元大統領の傘下で理想に燃えて働く若い職員たちは、明日のアメリカの市民活動の担い手となる。

 また、元大統領たちは所属党派や政治信条の違いはあるにせよ、大国アメリカを率いるという、他のだれも経験したことのない年月を経ている。だからこそお互いへのリスペクトがり、時には同じ目的のために行動を共にする。

 元アメリカ大統領の使命と影響力は、これほどまでに深く、広く、大きいのである。
(堂本かおる)

最終更新:2017/09/22 07:15
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