日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 寺山修司原作の映画『あゝ、荒野』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.448

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』

 前編では年齢の離れた兄弟のように仲がよかった新宿新次とバリカン建二だが、同じジムに所属する2人がもっとディープに、より濃厚なコミュニケーションを図るには、リング上で真剣勝負するしか道はない。後編ではバリカン建二は居心地のよかったジムを離れ、最強のライバルとして新宿新次の前に立ちはだかる。2人にとっては、リング上で生きるか死ぬかの限界まで殴り合うことが、SEXを凌駕するサイコーの愛の交歓となる。かつてないデンジャラスで、サディスティック&マゾヒスティックなボーイズ・ラブロマンスとしてクライマックスへと突き進んでいく。

 裸で闘うのは男優たちだけではない。女優たちも真っ裸になってカメラの前に立つ。ヤリマン女で、窃盗の常習犯であるヒロイン・芳子に抜擢されたのは若手女優の木下あかり。脱ぎっぷりよく、菅田との激しい濡れ場を演じてみせる。新宿の中華料理店でばったり再会した新次と芳子はその後も身体を重ね合う関係となるが、新次がプロボクサーとして自分の生きる道を見つけると芳子は距離を置こうとする。ヤリマン女の純情さに、鼻の奥がツーンとくる。グラビアアイドルとして人気の今野杏南は、「自殺抑止研究会」のメンバー・恵子を演じ、大胆なベッドシーンに挑戦した。今野のたわわな美乳とピンク色の乳首は、新宿という荒野に咲いた清純な花のようだ。ベッドを共にしたイクチュンが羨ましい。ジムを経営する片目が通うバー「楕円」では、震災で家族と故郷を失った女・セツを演じた河井青葉の熟女ヌードも用意されている。闘っているのは男だけでない。女たちもまた多くのものと闘いながら生きていることを実感させる。

 5時間を越える熱い愛憎の物語も、新宿新次とバリケン建二がボコボコに殴り合うことでついに終止符が打たれる。『あしたのジョー』の矢吹丈と力石徹との宿命の対決のような壮絶なラストとなる。これが寺山の主宰した「天井桟敷」の舞台だったら、最後の最後にスクリーンがまっぷたつに割れて、スクリーンの向こう側には夜の街、ネオンの荒野が広がっていることだろう。書を捨てよ町へ出よう。暗闇の中でただ待っていても、何も始まらないよ──。寺山修司は死してなお、時代のアジテーターであり続ける。
(文=長野辰次)

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』の画像4

『あゝ、荒野』
原作/寺山修司 脚本/港岳彦、岸善幸 監督/岸善幸
出演/菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡、高橋和也、今野杏南、山田裕貴、河井青葉、前原滉、萩原利久、小林且弥、川口覚、山本浩司、鈴木卓爾、山中崇、でんでん、木村多江、ユースケ・サンタマリア
配給/スターサンズ R15+ 10月7日(土)前篇、10月21日(土)後篇 新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ
http://kouya-film.jp

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』の画像5

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

最終更新:2017/10/06 11:15
123
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

小池百合子都知事周辺で風雲急!

今週の注目記事・第1位「小池百合子元側近小島敏...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真