月9最多主演記録を誇る木村拓哉が『PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』で魅せた“人間らしい不器用さ”
木村拓哉さんの出演した“月9”作品を辿っていく『キムタ9』。連載ラストは2012年放送の『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~』を回想したいと思います。
木村さんは、本作と2010年に放送された『月の恋人〜Moon Lovers〜』、2014年『HERO(第2期)』を含み、月9最多主演俳優となる10回を記録しています。2位は7回の中山美穂さん、3位は5回の三上博史さん、福山雅治さん、山下智久さん。主演作品を高視聴率に導くだけでなく、台詞やファッションなど、ドラマを通して何度も社会現象を起こして来た俳優は、木村さんしかいません。ただ今、SMAPというアイドルの顔は一時休止です。でも、いつかまた5人の姿を観られる時が来ることを信じて、「元SMAP」の表記はしないことにしておきます。
不幸が降り続いた会社員が起こす、起死回生が爽快!
“ある日突然『ミラクル魔法瓶』営業企画部課長の座を社内の陰謀によって解雇されてしまった金田一二三男(木村)。さらに自宅マンションは火災により爆破してしまい、すべての財産を失って貧乏になってしまう。何とか転がり込んだアパート『幸福荘』で、在職中の上司・模合嫌吾(中井貴一)や、経理部の二階堂彩矢(香里奈)と共に新会社を立ち上げて再起を狙う。ただ『ミラクル魔法瓶』からは必要以上の邪魔が入ってしまい、新事業での仕事が難しいものに……”
早速、結末をネタバレしますが、最終的には『ミラクル魔法瓶』の社長・大屋敷統一郎(藤木直人)と二三男が、腹違いの兄弟であったというトンデモ事実が発覚し、社長の陰謀がすべての不幸の引き金だった、という話でした。でも、本ドラマで注目すべきは、社長とのいざこざよりも、二三男のどん底まで落ちても自分を諦めなかった姿勢です。
二三男は『ハピネス魔法瓶』という会社を立ち上げて“奇跡の魔法瓶”を開発し、最終的には『ミラクル魔法瓶』の社員が、会社を捨てて二三男の元へ駆けつけるほどの成功を掴むのです。社長の息子には、亡き父から受け継いだ商才と人徳があったということでしょうか。
本ドラマでも、木村さんらしい印象深い台詞があります。
統一郎から、先代の社長が自分の父親であり、亡くなる際に「お前(=統一郎)は社長の器じゃない。本当にふさわしいのは金田一二三男だ」と言い残したことを聞いた時。統一郎は、その嫉妬心から覚えた危機感で、執拗なまでに二三男に執着したものの、結局社員がすべて二三男の元に行ってしまった時にようやく観念して、すべてを話しました。こんな状況であれば誰もが怒り散らかすところですが、さすがは二三男。
「……いや。何でこんな目に遭うのかなって、俺ずっと思ってたんすけど。理由がそれでよかった。まあ、言ってみれば、ねっ? 兄弟ゲンカみたいなことでしょ」
この台詞で「ああ、不幸が降りかかっても原因が何かわかればそれでいいんだ。誰かを責めることもなく、サラッとしている人ってかっこいいわ」と気づいたんですよね。彼の寛大さに救われました。ありがとう、二三男。
改ページ
そんな“池井戸潤のTBS日曜ドラマ劇場”を彷彿させる働く男性、女性たちの熱き思いが詰まったドラマ『PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』。『CHANGE』の控えめな朝倉に比べると、二三男はだいぶキムタク節が戻って来たような。序盤はかなりイケイケキャラですが、逆境や困難に直面することで少しずつ考え方が変わっていくのです。
このドラマを通して……というよりも、『キムタ9』を書かせていただくにあたり、再度ドラマを見直して気づいたことがあります。それはすべての作品で木村さんはキャラクターに合わせながら“不器用さ”を表現していていたということです。
時には口下手なピアニストが、自分になかった熱さを愛情によって不器用に取り戻していく。自信満々の広告マンが営業部へ異動になっても、不器用ながら客の心を掴んで、そして好きな人の心も掴んでいく。控えめで、うまく縦社会を乗り切れない不器用な総理大臣だからこそ、国民の心を動かす。
さまざまなキャラクターを“器用”に演じ分けて居た木村さん。でもそこには、視聴者の心にすっと浮かんでくるあの笑顔と声、そして“人間らしい不器用な人物像”を演じるということだけは一貫して存在していました。いずれ新作の“月9・木村拓哉”に会えることを待ち詫びています。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事