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ウッチャン、『逃げ恥』、『バイプレイヤーズ』…ポリティカル・コレクトネスの中で生まれつつある新しいエンタメ 西森路代×清田隆之(桃山商事)

今年4~6月に放映され、10月にはDVDの発売も予定されているドラマ『架空OL日記』(日本テレビ系)。バカリズムが、なぜ女性たちを過剰に貶めることも崇めることもなく、リアリティのある「OLモノ」を作ることが出来たのかを、ライターの西森路代さんと恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田隆之さんが語った前編。

後編からは『架空OL日記』にとどまらず、「男性的なコミュニケーション」から外れたトーク番組の魅力、そしてポリティカル・コレクトネスとお笑い、YouTuberとミソジニーなど、新しい価値観をもったエンタメの登場と旧態依然とした問題を抱え続けるエンタメの問題について話し合う。

* * *

清田 前編では、バカリズムのドラマ『架空OL日記』の話をしました。その中で、男性と女性のコミュニケーションの違いについて触れましたが、もうひとつ、個人的に憧れを抱いた女性同士のコミュニケーションがありました。それは、女子5人が自分の“生理的な感覚”を語りあっていたところです。やれ「タイツの履き心地が不快」とか、やれ「脱毛の痛さは輪ゴムで弾かれたのと同じくらい」とか、彼女たちはしょっちゅう身体感覚の話で盛り上がっていたじゃないですか。あれがとても羨ましく映った。というのも、男同士ってそういう会話も全然できないんですよ。たとえ誰かに言いたくても、「こんなことを話しても意味ねぇな」って切り捨ててしまう感覚がある。

西森 意味のない会話、オチのない話、次々と移ろう話題に、過剰反応する男性がいるのは、ある意味お笑い芸人のコミュニケーションが一般的にも浸透してしまった弊害かもしれませんね。男性の友達で、トーク番組『はやく起きた朝は…』(フジテレビ系)が好きって人がいるんです。松居直美と磯野貴理子、森尾由美の3人が、はがきを読んで他愛のない会話をしていて、それがすごく好きなんだそうです。私からしたら、そんなの普通じゃん、と思ってしまうくらいなんですけど、他愛のなさが削られてしまう昨今のテレビで実現していることに価値があるんだなと。

前編でも触れた『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)的な、枝葉のしっかりした会話をしないといけないという圧力から逃れたいという男の人もいるでしょうね。同じバラエティでも『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「立ちトーク」企画だと、思いついたままに話す良さがあって(もちろん、事前に打ち合わせはしているにしても)、そちらには、お笑い芸人特有のネタフリがあって最後にオチで回収してという会話の圧力がないのかなと思います。あと、私は『いろはに千鳥』(テレビ埼玉)という番組が好きなんですが、その番組も、ロケでどう会話が転がってもいい自由度があって、そこに本当に癒されるから、そういうギチギチに決められていない会話の良さっていうのも求められているのかなと。

清田 前編で「男は会話にテーマ(何について話してるか)とゴール(どこに向かって話してるか)がないと不安になる」という話をしましたが、そういう会話って極めて直線的だし構築的ですよね。脱線したり、無関係な方向に飛んだりすることが許されない。その一方、生理的な感覚や身体的な感覚をめぐる会話って、根拠も方向性もないじゃないですか。「何かこう感じた」って話なので。でも、それを相手にわかってもらえると、自分自身が肯定されたような気持ちになると思うんですよ。共感って単なる相づちの打ちあいではなく、互いに肯定しあうって行為のような気がしていて。これは男同士の会話に欠けているところだと感じています。

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西森 インタビューでも、男性の中には、「そのときどうでした?」と、あいまいな聞き方をすると、「どうでしたっていわれたって言われてもねえ」みたいな空気になる人もたまにいます。たぶん、とっさに出てこないんだと思います。でも、枝葉がしっかりしていなければっていう会話の圧力を感じているのは女性だけじゃないのかも。『すべらない話』的な話法から離れたいという気分もあるかもしれないですね。別に『すべらない話』の話法の芸も面白いことは面白いんですけど、なにかその話法に固執するのが男性性であると考えるほうが問題というか。

でも、実際、バラエティではむしろそうじゃないものも人気になりつつあります。いま出川哲朗さんと内村(光良)さんが再ブレイクしていて、彼らはいわゆる番組内での「偉い人」じゃないんですよね。バラエティにどれだけ出ていても「君臨」するタイプではないし、威圧感もない。出川さんはMCという管理職になれないまま、ずっといじられる立場で偉くならなかった。だからみんな怖がらないし、可愛らしさを感じて人気になっている。しかも、出川さんが『滑らない話』的な話法をすることもないだろうし、固執することもない。内村さんはいっときテレビの出演本数は減ったけど、それでもずっと第一線で、今や、あの世代の芸人の中で一人勝ち状態ですよね。しかもその人気の理由が「優しさ」というか、固執しなさにある気がするんですよ。『イッテQ』でも『内村てらす』(ともに日本テレビ系)でも、司会なのに全然「ザ・マスター・オブ・セレモニーです」って感じじゃなくて、ほかの人たちと楽しそうに座って、それでいて視聴率も持っている。

清田 ウッチャンがつくる場の空気が人気を得ているってことなんでしょうね。相手のことを否定しないし、貶めたりもしない。

西森 ウッチャンは今53歳だけど、まだ男性の売りが「優しさ」っていうことを受け入れられない人も多い世代だと思うんですよ。

清田 確かにそうですね。松本人志なんかまさに象徴的ですが、主張してナンボという価値観だし、常に「笑わせる側」「笑いをジャッジする側」に身を置いていて、笑われること、いじられることは決して許さない。そういう世代のホモソーシャルにあっては、ウッチャンのような周囲の良さを引き出す調和型の男性は「情けない男」と見られてしまう可能性がありそうですね。

西森 松本さんも、実は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)なんかでは、そんなにふんぞり返った役割でもないんですよ。存在自体に威圧感があるのは、むしろ浜田さんとか、くりぃむしちゅーの上田さんとかもそのタイプですね。一人で台本持って別のところに立っているスタイルじゃないですか。でも、松本さんは何か意見求められるときのほうに思想や倫理観が見えてしまって、発言がニュースで物議を醸してしまう……。あの番組でも位置的には横並びで座ってるけど、そういうの関係なしで。

清田 ウッチャンじゃないですけど、僕も男性たちの優しいホモソーシャリティに触れると癒やされる感覚があります。バラエティじゃなくてドラマの話になりますけど、個人的に『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)で描かれたおじさんたちの友情がすごく好きで。大杉漣、松重豊、遠藤憲一などがキャッキャ言いながらシェアハウスで暮らしていて、一緒に家事をしたり、グループLINEで盛り上がったりと、仲が超いい。出演者はトップクラスに成功している俳優ではあるけど、みんな脇役=バイプレイヤーであって、いわば権力(=主役)を持てなかった側の人々の集まりなんですよね。本人役で登場する彼らの背景に見える「お互いいろいろ苦労してきたよな」っていう共感や共有が、男性同士の優しい連帯を生み出しているのかなと感じました。

西森 『バイプレイヤーズ』のおじさんたちも、コワモテの人が多いのに威圧感のない可愛らしさがありましたね。清田さんも言ったように、そこには、バイプレイヤーズだからってことがすごく関係があると思うんですよ。主役が社長とか部長だとしたら、バイプレイヤーズって課長とか主任で、それは出川さんの構図と同じなわけで。単にこじつけだと思うかもしれませんが、彼らの、社長とか部長のように偉ぶらないで、現場の中の一人であるという態度が、あのドラマの空気感を出しているわけですね。

逆にこれからは、「偉い人」でその権力を傘にきるタイプの人は今までと同じふるまいをしていたのでは大変になってくるはずです。昔のように上司として君臨できなくて、どういう振る舞いを選ぶかが問われてくる。会社なんかでも、そうだと思います。偉くて周りから立ててもらえることが当たり前だと思っていたのに、そうじゃなくなったら、「どうしてなんだ!」となって、不満がたまって不機嫌になったりする可能性もありますよね。そういうときに求められてるのって、セルフケアだと思うんですよ。メンタルも含めて、自分を認めて自分の面倒を見ることができる人。それができずに、周りに不機嫌をぶつけていると、周りだけじゃなくて自分にとっても大変でしょう。

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清田 「男性の不機嫌」は桃山商事でやってる恋愛相談にもしょっちゅう寄せられるテーマです。特に権力を持った男性(偉い人とか上司とか)の不機嫌は暴力に等しい。あれって、不機嫌を発露すれば自分の要望が通ったり、周囲が慮ってくれたりすることをわかってやっているんですよね。つまり不機嫌な態度って「便利な手段」なんだと思います。これは単なる想像に過ぎませんが、松本人志とか、石橋貴明とか、坂上忍とか、不機嫌な態度によって現場の人をめっちゃ支配してると思う。とにかく男の不機嫌は本当にやめてほしい。それでいうと、ウッチャンからは不機嫌さをまったく感じないですね。

西森 確かに、最近の「とんねるず」のことも話題になりましたけど、誰かを貶めて笑ったりするほうがありきたりで昔からなんの進歩もないんだってことに気づいていない人は気づいていないですよね。

一方でいま、「ポリティカル・コレクトネス(PC)が表現の幅を制限する」という批判があります。だからこそ、それを覆すのが挑戦であり、かっこいいことなんだ! みたいな方向に信じ込んで、人を傷つけるネタをあえてやる人がいるんじゃないかと思います。例えば、誰も傷つけないネタは、ナイフみたいに尖ってないからかっこ悪いとか、女性におもねっている感じがするからしゃらくせーとか、もっと言えば、俺がやりたいことを奪われて去勢された気分になるとか。それはミソジニーとも密接につながっているんです。それでテレビやお笑いが嫌いって視聴者も多いと思いますけど、実はもはや若い世代でそんなことを言っている人って少くなっているし、差別や弱いものいじめをネタに込めない人のほうが、ネタの精度はあがっていると思います。そういう新しい枠組みの中でどうやって新しい物語や笑いをつくるかが試されているから、誰も傷つけない笑いを作るほうがよっぽど挑戦的で難しくてかっこいいことだと思うんです。

清田 先日wezzyでも「ラファエル・禁断ボーイズ…これ以上放置できない、YouTuber業界に蔓延する性差別・民族差別的動画の実態」という記事が上がっていましたが、僕も最近、個人的に「YouTuberとミソジニー」問題が気になってます。VALU問題で活動休止中のラファエルや禁断ボーイズ、ベビーフェイスとマッチョボディで人気のぷろたん、「ナイトプールでガチ泳ぎ」という動画が炎上した6面ステーション、「レペゼン地球」というユニットに所属するDJ社長などなど……彼らは「街中で女性にお金をいくら渡したらラブホに行ってくれるか」「どうやったらおっぱいを触らせてもらえるか」みたいな検証動画や、女性に嫌がらせやセクハラをして盛り上がる動画、喜々として外見差別を叫ぶような動画などでめちゃめちゃ再生回数を稼いでるんですよ。

西森 全然知らなかったけど……そんなことが起こっているんですね。

清田 YouTuberって基本的に数字の世界で、誰がどう観ているかは問題にならない。そこではマジョリティにウケる内容のものが志向され、そのためには新しい価値観を提示するような動画よりも、旧態依然の価値観に乗っかった動画のほうが数字は稼げる。で、ミソジニーって残念ながらまだまだマジョリティの感覚なんですよね。さらに、売れっ子YouTuberの動画ってとにかく編集のテンポがめちゃめちゃいいんです。これは短い動画をサクサク観てもらうための工夫として発達したものだと思いますが、あまりにテンポがいいため、内容の是非を考える前に脳ミソが「おもしろい」と感じてしまう。リズミカルだから、観ているだけで気持ちよくなってしまうわけです。この「旧態依然の価値観×異常なテンポの良さ」という要素によって、観る者は思考する間も与えられないままミソジニーを摂取していく。ミソジニーなYouTuber自身にとって女性を全力でバカにすることは快楽だろうし、それで再生回数も稼げてしまうから、何も疑問を持たないどころか、それこそが大衆が求めているものだとすら考えて今後もミソジニー動画をバンバン作っていくと思う。こうやって若い世代にもミソジニーの構造が再生産・再強化されていくことを考えると、かなり恐ろしいことだなと……。

西森 そういう“快楽や条件反射で見てしまう”ものが増えすぎたとき、プロの芸人さんが「自分たちはちゃんと知恵を使って逆のものをつくろう」となったらいいなと思いますね。それに、稲垣さん、草彅さん、香取さんの三人の「新しい地図」の「武器はアイデアと愛嬌」って、この対談で言ってることのまさに要約じゃないですか。

清田 おおお! まさに! 素人くさい笑いの世界観に、最も嫌悪感を催すのはプロの作り手たちのはずですもんね。

西森 さっきも言いましたけど、テレビがコンプライアンスで昔のようなことはやれなくなっている中で――もちろんその状況を私がマイナスと捉えているわけじゃないです――「俺たちはそんなこと無視して過激なことやっちゃうぜ」っていう方向で視聴率を取ろうとするバラエティ番組はたまにあります。でもそれが支持されるかというと、そうじゃなかったりする。今のドラマでも、旧態依然の価値観、例えばアラサーの女子は焦って結婚したがってるだろうという価値観で物語を作っても受けなくて、むしろそんな価値観からこぼれた人を描いた『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のほうが高い評価を受けました。やたらと保守的なほうが本当は受けるんだっていう神話を信じてる人は多いし、CMなんかでも、もうそれで炎上を狙うようにまでなってしまったように見える事実もありますけど、実は新しい価値観のもののほうが、視聴者にも届くんじゃないかなと最近思っています。

清田 『逃げ恥』や『カルテット』(TBS系)のヒットもそうだし、『架空OL日記』のような作品が話題になるのもその兆候を表していますよね。お笑いの世界でも、ブルゾンちえみやカズレーザーという新しいジェンダー観を持った芸人が大ブレイクを果たしている。またNetflixなどで観られる海外ドラマには、PC的にもクオリティ的にも圧倒的に先を行ってる作品が目白押しです。そこではレズビアンもピルもタバコも宗教も女性の自慰行為も、ことさら特別なこととしてではなく、生活の中に存在する一要素としてごくナチュラルに描かれている。登場する男性たちのジェンダー観もかなり進歩的です。明石家さんまがNetflixをライバル視してると言うなら、海外ドラマのそういう部分を謙虚に学び、ミソジニーYouTuberを駆逐するような笑いを作ってくれたら、めっちゃカッコイイなって思います。
(構成/斎藤岬)

最終更新:2017/10/09 07:15
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