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“失明危機”から舞い戻った格闘家・渋谷莉孔、涙のロングインタビュー!

――試合直後は悲しんでいましたが、今は勝利の充実感はありますか?

渋谷 絞め落としたこととは関係なしに、なんか喜べない。試合前はずっとこう思っていたんですよ。今回勝ったらめちゃくちゃ泣くだろうな、と。ところが、実際は勝ってもまだ心の底からは喜べていない。まだ実感がないのか、どう喜んでいいのかわからないのか、って感じです。チームのみんなの前では喜んだけど、「やったー!」ってまだ言っていないですもん。格闘技で勝って1人でしみじみと喜びを噛み締めた経験って、今まで一度もないかもしれない。

――それはなぜだと思いますか?

渋谷 そこも気分屋なんだと思います。一瞬うれしいと思っても、すぐ次に気持ちがいっちゃうんですよ。俺の脳みそは、直感で受け取って理性で返すタイプらしい。要は飽き性、浮気性なんでしょうね。直感でいいなと思っても、理性で考えてもういいやってなっちゃう。だから買い物してもすぐ捨てちゃうし、家には物がほとんどない。記念品なんて持ち帰ったことすらないですからね。ONEで勝つと3キロぐらいのプレートをもらえるんですけど、いつも誰かあげちゃいます。今回もタイから、スーパーのトートバッグ一つで帰ってきましたから。行くときは大荷物だったんですけど、帰りはスーツケースとか体重計とか服とかを全部現地に捨ててきました。だって、重たいじゃないですか。

――試合で使ったファイトパンツとかも捨てちゃうんですか?

渋谷 洗うのが面倒なんで、捨てちゃいます。そういやファイトパンツで思い出した! 俺の試合用のファイトパンツは、ケツの部分に「Ganapati PLC」というスポンサーロゴが入っているんですけど、今回このアイロンパッチのロゴを、現地に行ってから自分でアイロンを使って付けようとして大失敗したんですよ。水を噴きかけてからアイロンをかけなきゃいけないってことを知らなかったから、熱で生地が溶けてファイトパンツのケツの部分にでっかい穴が空いちゃった(笑)。

――まさか、それをはいて試合に出たんですか?

渋谷 はい(笑)。たまたまチームの後輩に器用な奴がいたから、そいつがアイロンで生き残った生地をちょっとずつペローンと伸ばして穴を塞いで、裏からもパッチを付けて補強してくれて、それでどうにか試合に出ました。試合が2ラウンドまで長引いたらロゴが取れて、ケツ丸出しになっていた可能性がある(笑)。だから1ラウンドの序盤で試合を終わらせられてよかったです。

――デェダムロンを破ったことで、タイトルマッチも見えてきました。

渋谷 ベルトは要らないですね。なんでかわかります?

――わかりません。

渋谷 持って帰るのが重たいからですよ(笑)。

――(笑)しかし、勝ってもうれしくない、ベルトにも執着がないとなると、渋谷選手は一体なんのために戦っているのでしょう? 応援している側からすると、今回の渋谷選手の勝利はめちゃくちゃうれしかったですけどね。2008年の「THE OUTSIDER」のデビュー戦からずっと見てきて、目のケガで苦しんでいたことも知っていましたから、見ていて今回ほど緊張し、感動した試合はなかったですよ。

渋谷 ……あ、わかった。やっとわかったっス。なんでうれしくないんだろう? なんで勝ったのに辛いんだろう? っていう理由が、今やっとわかった気がします。ぶっちゃけ俺、格闘技はまったく好きじゃないんですよ。でも今回、試合を終えて控え室に戻ったら、チームのみんなが泣いて喜んでくれていたから、俺もうれしくなって、もらい泣きしたんですよ。人生で泣くことなんてほとんどなかったのに。でもみんなと別れてホテルの部屋に入る頃には全然うれしくなくなっていた。つまりそれって、試合に勝って俺自身がうれしいんじゃなくて、周りが喜んでいる姿を見るのが俺はうれしんだなと思って……(突然、嗚咽を漏らす)。それのために俺、好きでもない格闘技を頑張ってこれたんですね。

――戦うモチベーションは、そこにありましたか。

渋谷 (泣きながら)そういうことか……。だって今、本当にうれしいですもん。うれしいと言ってくれたことに対し、本当にうれしい気持ちなれました。ありがとうございます。

 * * *

翌日、渋谷から電話がかかってきた。

――どうしましたか?

渋谷 聞いてください。おかげで正視恐怖症が治りました。今日、何十年かぶりに人の目をちゃんと見てしゃべれたんですよ。それまで長いこと、ピントを合わせられなかったんです。ピントを合わせたら必ず人って、俺のことを嫌な顔で見る。だから今まで合わせられなかったのに、今日はできるかもしれないと思って試してみたら、ピントを合わせられました。人の顔ってめちゃくちゃ猿みたいですね(笑)。目の使い方が正常化したことで、世界が違って見える。このことを脳外科の先生に報告したら、「泣いたことによって眼球の周りの感覚を取り戻した可能性がある」と言われました。

――それまで人を正視できなかった理由は?

渋谷 誰も信用できずにいたからです。

――なぜ信用できなかったのでしょう?

渋谷 そういう人生だったからです。起きろと叩かれ、寝たら怒られ、しゃべれと言われてしゃべったら「うるせー!」と怒鳴られる。生きていることを全否定されて育ってきたんで、ずっと人を信用できなかったんですよ。でも今回、俺の勝利を本気で喜んでくれた人が何人もいることがわかったから、これからは人を信用して生きていけそうです。
(取材・文=岡林敬太)

最終更新:2017/12/25 12:26
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