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悪質な編集が人を殺す 林真須美被告の息子「泣いて済む問題じゃない」の真意

 今月から始まった関西テレビ制作のドラマ『FINAL CUT』は、偏向報道によって母親を失った主人公(亀梨和也)が、メディア関係者へ復讐するというストーリー。母親は12年前、ニュース番組の悪質な編集、演出によって殺人事件の犯人であるかのように仕立て上げられ、自殺に追い込まれた。

 こうしたことはドラマに限らず、現実の社会でも日常的に起こっている。つい最近も、同じようなことを目の当たりにした。

 昨年末、「和歌山毒物カレー事件」を取り上げた報道特別番組で、犯人として逮捕された林真須美被告(正しくは「眞須美」)の30歳になる息子が、VTR出演した際のこと。

 「彼は、なぜ取材に応えてくれたのだろうか」というナレーションに続いて、逮捕前の真須美被告が涙ながらに語る映像を見た息子が「涙流してるからといってこれを擁護する気は子どもとしては無い。泣いて済む問題じゃない」と発言するシーンが流れた。

 私は耳を疑った。これでは、息子も真須美被告をカレー事件の犯人だと信じているということになる。息子とは、10年前に取材で知り合って以来、細々と連絡を取り合っているのだが、彼は一貫して母親の無実を信じ、支援活動を続けてきた。だから「擁護する気はない」などと言うはずがないのだ。

 後日、息子に「なぜあんなことを言ったのですか。もしかして編集されたのですか?」と尋ねたらその通りだった。彼は、真須美被告自身も関与を認めた保険金詐欺について、「擁護する気は子どもとしては無い。泣いて済む問題じゃない」と発言したのだ。母親の無実を信じ、一縷の望みを託して取材協力をした息子の思いは無残に裏切られた。

 息子は、最近複数の報道番組に出演している。いずれも殺人犯の息子だという理由で受けたいじめや差別について、顔が映らないようにして語るという形である。

本当は、事件直後のヒ素鑑定の杜撰さや目撃証言の曖昧さなどに言及し、母親の無実を訴えたいのだが、それは許されないようだ。なにしろ逮捕当時の報道のインパクトが強すぎて、誰もが真須美被告が犯人だと信じている。しかも現状では司法のお墨付きなのである。この状況で、テレビという万人向けのメディアが事件の冤罪性について一石を投じることは、現実的ではないのだろう。

 そんな閉塞状態のなか、『ビビット』(TBS)でこの事件の冤罪性に触れたのが、コメンテーターとして出演していたカンニング竹山氏である。彼は、1月8日に同番組が「平成ワイドショー 10大ニュース」のうちの1つとしてカレー事件を取り上げた際、「どうしてもひっかかるのは、はっきりと断定されていないのに、死刑判決を受けちゃってるから、間違いはないんだろうけど、どうしてもずっと数年間、自分の中でこの司法の裁きでよかったんだろうかというのが、いまだにひっかかっているというのはありますね」と発言。「間違いないんだろうけど」としつつも、司法判断に対する釈然としない思いを吐露した。

 現在、カレー事件は再審請求中である。認められるか否かには世論も影響するため、こうした意見がテレビで語られることには意義がある。逆に、無責任な報道が再審の道を閉ざし、冤罪の可能性がある人を死刑台へ送ることになるかもしれない。

 カンニング竹山氏が言う「はっきりと断定されていない」というのは、決め手となる証拠が存在しないことを指しているのだろう。実は、このことはあまり知られていない。状況証拠のみによる性急な逮捕と、事件発生時の過熱報道は無関係ではあるまい(※)。

 凶悪事件が発生すると報道が過熱するのは当然だが、特に女性による凶悪犯罪は、木嶋佳苗被告による首都圏連続不審死事件や、筧千佐子被告による青酸連続殺人事件を例に挙げるまでもなくその傾向が強い。それは女性による凶悪犯罪が珍しく(例えば戦後の死刑囚は、男性が約800人であるのに対し、女性はたったの16人である)、男性よりも女性を客体化することに愉悦を感じる人が多いからだろう。犯罪のカテゴリーは伝統的にジェンダーの色彩が濃いのだが、特に「断罪されるべき凶悪犯」に対しては遠慮がない分、露骨に現れる。今後、この連載の中では女性犯罪について折を見て言及していくつもりだ。

(※)和歌山毒物カレー事件に対する過熱報道の内容については、佐藤友之著『マスコミは何を伝えたか 追跡・和歌山カレー事件報道』(解放出版社)が詳しい。

最終更新:2018/01/21 07:15
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