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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.468

選挙での獲得票数と信仰心のあつさは比例する!? 公明党と創価学会の内情を描く問題作『息衝く』

「種子党」の幹事長を演じるのは、インディペンデント映画界の売れっ子俳優である川瀬陽太。かつては青雲の志を抱いていた人物役。

 青森県出身の木村文洋監督は、六ヶ所村の核燃料再処理工場で働く青年とその婚約者を主人公にした社会派ドラマ『へばの』(08)で長編監督デビューを飾った。その後、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の幹部・平田と女性信者との逃亡生活にインスパイアされた『愛のゆくえ(仮)』(12)も撮っている。今回の『息衝く』は、青森ロケを敢行した『へばの』を公開した直後に「原発関連の施設のある地元だけの問題で終わらせずに、加害者であり、また被害者でもある日本人全体の立場から作品を撮らなくては」と思い立った企画だ。途中、東日本大震災が起こり、完成するまで10年近い歳月を要した。木村監督も含めて5人の脚本家たちによる共同作業を経て、様々な視点を盛り込んだ群像劇となっている。「種子の会」の強い繋がりや、選挙の投票日に会員たちがみんなで懸命に祈祷する様子などは、木村監督自身が大学時代に「創価学会」に入っていたときの体験をもとにしたものだ。

木村監督「もともと宗教に関心があり、青森から京都大学に進学した際に知人に勧められて創価学会に入会したんです。投票日にみんなで祈祷しているシーンは、僕が学生時代に見た光景です。選挙での獲得票数が信仰心のあつさと比例するという考え方は多分、今も続いているはずです。僕は映画サークルの活動が次第に忙しくなったこともあって、1年で集まりには参加しないようになりましたが、孤独な人間にとって居場所が用意されていることはすごく心地のよいこと。僕が入信した1990年代はもうそれほどではなかったと思いますが、創価学会が信者数を大きく増やした60年代や70年代は、地方から都会に上京してきた次男や三男、頼る相手のいない出稼ぎ労働者たちにとっては大切なコミュニティとして機能していたはずです。学会員の知人との交流は今も続いていますし、マジメに宗教活動している学会員も少なくないと思います。でも、マジメに活動している人ほど、今の政治状況には悩んでいるように感じるんです」

 劇中で描かれている「種子の会」「種子党」は、創価学会と公明党をモデルにしたものだが、本作は宗教&政治タブーを扱うことで安直に話題づくりを狙ったものにはなっていない。大きな矛盾を抱え、葛藤しながらも、前へ進まざるをえない今の日本の社会状況を象徴する存在として描かれている。

木村監督「原発が経済的にも非合理なものであることはすでにみんな気づいているのに、日本では地方の独占企業である電力会社の力が強く、また中央の人間も原発を止めたがらない。こういった状況を変えるには、従来とは異なる価値観を持った人たちが増え、声を上げていくことが重要だと思うんです。異なる価値観をつくるために、宗教関係者にも、脱会者にも、何より自分の帰属体が分からない人にこそ、そこを考えてほしいんです。この映画が公開されることで、政治や宗教についてもっと普通に話し合えるような空気になればいいなと思うんです」

 物語のなかば、則夫と大和はシングルマザーとなっていた慈(長尾奈奈)と再会する。やがて3人は、子どもの頃のように「よだかの星」を探す旅に向かう。そして、3人は変わり果てた「よだか」と遭遇することになる。カリスマ的指導者に依存することなく、どうすれば明日を信じることができるのか。田無タワーが告げる天気予報と違い、この映画が投げ掛ける問いの答えは容易には見つからない。
(文=長野辰次)

『息衝く』
監督/木村文洋 脚本/木村文洋、桑原広考、中植きさら、杉田俊介、兼沢晋 音楽/北村早樹子
出演/柳沢茂樹、長尾奈奈、古屋隆太、木村知貴、齋藤徳一、GON、小山雄貴、片方一予、中村卓也、岡村まきすけ、遠藤隼斗、野口雄介、申瑞季、首くくり拷象、小宮孝泰、西山真来、坂本容志枝、川瀬陽太、寺十吾
配給/team JUDAS 2017 2月24日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
c) team JUDAS 2017
http://www.ikiduku.com/

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最終更新:2018/03/06 13:44
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